経済界きっての読書家が教える「本の選び方」 福原義春「良書との出会いが決定的に大切」

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私はハウツー本も時には役に立つと思っているが、それはあくまでも副食であって、やはり主食であるご飯をきちんと食べないと健康な体は作れない。主食にあたるのはもちろん先人が深い考えで書いた古典、あるいは人間や物事の本質を見極めようとする本といえる。

私は『○○の仕方』とか『○○で成功する方法』というような、いわゆるハウツー本はあまり読んでこなかったし、それはそれでよかったのだと思う。仕事を強くする教養とは、知識ではないからだ。うんちくを山ほど知っていても、いざという時に確かな判断ができないことにも似ている。

たとえば、急な嵐で海面がひどく波立っても、海の中は変わらない。つまり物事は必ず自然な形に戻る。経験したことのない事態に追い込まれた時にも動じない、そういう真理を自分の中に育てていくことが教養を得ることなのではないかと。そして、私はそういう読書に助けられてきた。

未来のリーダーに勧める3冊

社会人になったばかりの新入社員や、これからビジネスリーダーとなる若い人に、いま薦めたい本は次の3冊だ。

ラ・ロシュフコー『ラ・ロシュフコー箴言集
P.F.ドラッカー『企業とは何か
リチャード・ファインマン『ご冗談でしょう、ファインマンさん

1冊めの『ラ・ロシュフコー箴言集』は人間の真理を、2冊めの『企業とは何か』は会社の真理を、最後の『ご冗談でしょう、ファインマンさん』は人生の真理を綴っていると思う。ドラッカーの『企業とは何か』を読んだのは比較的あとになってからだったが、他の2冊は、まだ会社に入りたての学生に毛の生えた頃に読んだ。

ラ・ロシュフコーはたった1行か2行の短い言葉の箴言で、人間の本質を明確に書いている。

「われわれはあまりにも他人の目に自分を偽装することに慣れきって、ついには自分自身にも自分を偽装するに至るのである」

「人はふつう褒められるためにしか褒めない」

ふとした折にこういう鋭い指摘が蘇ってきて、思わず自分を振り返ることがしばしばだった。引き比べて考えると本当に怖くなる。

「大部分の人は羽振りや地位によってしか人間を判断しない」

「年寄りは、悪い手本を示すことができなくなった腹いせに、良い教訓を垂れたがる」

300年も前の人間がこう言っている。指摘された愚かなことを私自身がやっていて、それを反省する。その愚行の繰り返しが、いつか人間の厚みや教養になっていくと思う。

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