経済界きっての読書家が教える「本の選び方」

福原義春「良書との出会いが決定的に大切」

ドラッカーの『企業とは何か』は、ヨーロッパ生まれのアメリカ人である著者がきわめて冷静な視点でアメリカ企業の姿をえぐっている。そして、企業や組織にとって、製品を効率よく低コストで生産して利益を追うより、リーダーを育てることのほうが重要だと説いた。初めて読んだとき、私には衝撃的だった。これは会社の真理だと思う。

ファインマンは、有名な『ファインマン物理学』という素晴らしいアメリカの物理学の教科書を著した学者である。若い頃には、なかなか無茶な人生を送っている様子が書かれ、いたずらの限りを尽くしているように見える。しかし、実はそうやって人を驚かせながら物理の法則の発見に通じる「普遍の法則」を学習していくのである。楽しく読み進めながら、真理を探す生き方の素晴らしさを教えてくれる。

古典や良書は、目の前の仕事に振り回されている私たちに、もっと深い真理を気づかせてくれる大切な役割を果たす。それもまた教養になるだろう。

本を読む感受性にも、旬がある

就職を果たして新入社員になった途端に、生活は目まぐるしく変わっていく。社会人としての基礎研修、日常業務の習得、仕事上の人間関係と、息つく暇もなくなっていくだろう。

私にも覚えがある。半年にわたる実習カリキュラムが用意された。化粧品メーカーだから、まず作業着を着て工場に行かされたり、販売会社でセールスマンと同行して自転車で店を訪問したり、次から次へと現場が変わる初年度だった。

若い人の日常がどれほど忙しいかは、承知している。しかし、良書にはそれぞれに巡り合う旬がある。仕事に切羽詰まって読むビジネス本も、上司から薦められた古典もまず読んでみる。あとで、と積んで置いておく間に錆びるのは、あなたの感受性だからだ。

経済界には本読みといわれる方が多くいらっしゃる。その中でも、私が直接学んだ鈴木治雄さん(昭和電工元会長)から、読書についてこういう話を聞いた。

鈴木さんは昭和電工の役員を務めておられ、対中国尿素プラント輸出の交渉では、団長として日本の各社を率いて中国に乗り込んでいかれた。その当時中国は、将来、農業生産が重要であり、そのときに尿素を含んだ肥料が多く必要になることをわかっていたという。

その上で中国側にはそれを輸入に頼るのではなく、自前で生産したいという要求があり、日本側は、能率の良いプラントの技術を中国に提供する交渉を開始しようとした。

鈴木さんは、中国に出向く前に、身近の中国通の方に、「尿素プラント輸出交渉をするために中国に行くが、中国での交渉の秘訣を教えてくれ」とお聞きになった。その中国通の方の答えは「一に忍耐、二に忍耐、三に忍耐だ」だったそうである。

そこで鈴木さんは、どれほどになるかわからない長期の交渉に備えて、中国の古典の日本語訳を買い集め、段ボールひと箱分を持って中国に乗り込んだそうだ。

当時、中国の税関では外国の書籍の持ち込みは禁止であり、当然、日本語で書かれているおびただしい本は税関で見咎められた。ところが、鈴木さんは、「これはあなたの国の古典を翻訳した書物です。中国の本なのです」と説明して税関を通し、ホテルへ持ち込めたという。

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