経済界きっての読書家が教える「本の選び方」 福原義春「良書との出会いが決定的に大切」
それから中国側と何十回交渉をしても商談は一向にまとまらず、他企業から同行していた代表者も帰国してしまった。しかし鈴木団長は、中国の古典を段ボール箱いっぱいに持ってきているので、それをホテルで読み続けた。来る日も来る日も本と向き合い、半年もそれを続けたのだそうである。
鈴木治雄さんは若いころからダンテの『神曲』をイタリア語で読んだという噂も聞いた。忙しいから読めないとか、外国にいるから読めないとか、そういうことは理由にならないと私も教えられた。鈴木さんは、そのとき初めて体系的に中国の古典を読むことで、中国古典を例にとって新たな考え方を得た。
本には、目先の役に立つから読んでおくべき内容のものもあれば、10年先、20年先、あるいは生涯の基盤となってその人の仕事を支えていくものもある。また現代のように時代の動きが速い社会では、いち早く新しい変化の概念を大きくつかんでいく必要もあると思う。
良書に出会える魔法の質問
今日は半日ゆっくり本を読もう、などと大げさに構えてしまうから本が読めなくなる。夜ベッドに入ったら本を読む人もあるし、朝出かける前の5分間に昨日の続きを読む手もある。本を読むのは空気を呼吸するように、いつでも読んでいるがいつの間にか1冊を読んでしまったという読み方もあるのではないか。
どうしたら読むべき本に出会えるのかわからない、という人もいる。書店の店頭をちらと眺めれば、読んでもらいたい本が目立つ陳列で並べてある。新聞・雑誌に載った書評の中から気になった本を探す方法もある。またインターネットでは、読んだ人の感想が並んでいる。さらに、少し本好きの人とつき合えば、見逃すべきでない本の名前を得意になって教えてくれるはずだ。
特別に本の話ばかりをする友人がいるわけではないが、私は毎日さまざまな分野の大勢の方とお目にかかる。そうすると、一緒に食事をしたり、会議に出たり、あるいは何か要件があって私を訪ねてくる人と会った帰りがけに「最近、読んだ本で面白いものがありましたか?」と聞くような場合がある。また、向こうから「こういう本を読んで感激したんだけれど、読んだことある?」といってくることも大変に多い。
そして、そういわれた本の話を聞き捨てにしないことが大切なのである。いわれたら必ず買う。もちろん、教えてくれた人と私とでは本の読み方や価値観が違うので、面白いと感じないこともあるし、そのまま役に立つとは限らないのだが、それでも自分の手元に取り寄せてみる。
また、良書を探してくれる「書友」を持つことがいいのではないだろうか。それぞれの世界で活躍している人から、その人が面白く読んだ本をちょっと聞き出すことに意味がある。
たとえば、流通業界なら誰、金融業界なら誰と心に決めて、「ところで、面白い本を読みましたか?」と聞く。もっと異業種の人なら、自分の関心の範囲を超えてそこから思いがけない本の世界が広がってくるはずだ。
その書友という考え方に気づかせてくれた知人はこういった。
「いい書友を持つにはただ待っていてはダメである。いい本を発見し、それを推薦でき、しかもきちんと語り合うことができなければ、書友との友情は長続きしないだろう。読書も情報活動の一つである」
人とのつき合いは、結局は持ちつ持たれつ、本についても同じである。まず自分自身が良い読者家にならないと、良い本は集まってくれないのである。そしてまた、面白い本は、人から人へと伝えられていくものだ。
読書は人の生存にとっての必需品ではないが、人生の必需品である。良書に出会えば何者にでもなれる。忙しい時間を盗んで本を読もう。
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