「わろてんか」視聴率20%超えで健闘した理由 朝ドラとしての魅力を支えた「分散投資構造」

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ここで、今回の月間エンタメ大賞が選ぶ「わろてんか」のMVPを決めてみたい。

MVP:濱田岳(武井風太役)

この朝ドラで濱田岳は、コメディアンとしての才能を、完全に開花させた。そして筆者は、濱田の演技者としての埋蔵量に驚いた。あくの強い関西人っぽさを、最も感じさせたのが濱田だったのだ(他に関西出身俳優が多くいたにもかかわらず)。将来的には西田敏行、いや、森繁久彌のような存在にまで高まっていくのではないか。また、天下のNHK朝ドラで、これほどまでにアドリブを差し込んだ俳優は、初めてと思われる。誤解を恐れずに言えば、この「わろてんか」は濱田岳のためのドラマだった。

加えて「主要三賞」を決めれば、殊勲賞:葵わかな、敢闘賞:広瀬アリス、技能賞:北村有起哉といったところか。

4月から始まる朝ドラは過去作品と比較される

総括として俯瞰的に見れば、冒頭で触れた、「わろてんか」における「お笑い班」「演技班」「美形班」の「分散投資構造」は、主演女優と脚本で圧倒するという、少し前の朝ドラのアンチテーゼのように思える。

「少し前の朝ドラ」を具体的に挙げれば、尾野真千子の圧倒的な演技力と、この上ない完成度の脚本で「朝ドラを超える朝ドラ」と言われた「カーネーション」(2011年)と、能年玲奈(現「のん」)の天然な存在感および、宮藤官九郎の独創的な脚本で話題を呼んだ「あまちゃん」(2013年)という、二大傑作である。

「カーネーション」と「あまちゃん」の高みを見据えながら、それとは異なる何かをどう作り上げるかというテーマに、その後の朝ドラ制作スタッフは格闘し、「ひよっこ」(2017年)や「わろてんか」は、その格闘の結果として、一定の成功を収めたと見る。

実は、その一方の高みである「カーネーション」が帰ってくるのである。この4月9日から、夕方16時20分から再放送が始まるのだ(1日2本放送)。つまり、次の朝ドラである「半分、青い。」は、毎日「カーネーション」と比較されるということになる。

「カーネーション」対「半分、青い。」の「2010年代朝ドラ・新旧対決」が続く毎日がやってくる。朝ドラファンに、また楽しみが増えた2018年春だ。

スージー鈴木 評論家

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すーじー すずき / Suzie Suzuki

音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。

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