「アイドルの作られ方」が激変した根本理由 平成アイドル史、この30年で何があったのか

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ここでプロデューサーの役割は、楽曲や舞台などに関わることだけではない。平成アイドルのドキュメンタリー性にどう関わるかもプロデューサーに問われるようになる。

ドキュメンタリー性を重視すれば、メンバーの卒業や脱退、スキャンダルなど必ず不安定要素が入り込む。その際、そうした不安定要素さえもエンターテインメントの一環に組み込む力量がプロデューサーに求められる。想定外の事態に適切に対処することもまた、プロデューサーの重要な仕事になるのである。

さらには、プロデューサー自らが波紋を起こすこともある。例えば、つんく♂が新メンバーオーディション開催をサプライズで発表したり、秋元康がAKB系列グループ間でのメンバーのシャッフルを実行したりする。それまでの安定は失われる反面、そこには新たなドキュメンタリードラマ的展開が生まれる。その点、ファンの延長線上にいる平成のアイドルプロデューサーは、やはり物語作者なのである。

バーチャルアイドルの意味

「ファン=プロデューサー」であることがさらに明瞭なのが、バーチャルアイドルである。平成は、テクノロジーの進歩とともにアイドルのバーチャル化が進んだ時代でもある。

89(平成元)年に伊集院光が自分のラジオ番組のリスナーとともに生み出した「芳賀ゆい」は、その元祖的存在である。彼女は架空の存在だが、伊集院とリスナーの考えによってラジオ出演、歌手、写真集、握手会などその時々で違う女性たちが役割を務め、いかにも「芳賀ゆい」というアイドルが実在するかのように演出した。それはまさに、「ファン=プロデューサー」であることを象徴する出来事だった。

その後恋愛シミュレーションゲームのキャラクター・藤崎詩織や大手芸能プロダクションがデビューさせたバーチャルアイドル・伊達杏子などバーチャルなアイドルが登場する。しかし、それらは既製品としてファンに提供されるものである点で、「ファン=プロデューサー」の願望を十分に満たすものではなかった。

その意味で、07年発売の音声合成ソフトから生まれた「初音ミク」は、ファンのプロデューサー願望を完璧に満たしてくれる画期的なものだった。提供されるのは素材のみ。それをもとにして各ユーザーの好みによってバーチャルアイドルを作り出せる。しかもインターネットの動画共有サイトを通じて独自にファンを獲得することもできる。一般のファンが、単なるプロデューサーの域を超えて造物主に近い感覚すら味わえるようになったのである。

こうしてアイドルのバーチャル化が進む背景には、安心感を得たいというファンの側の心理も働いているだろう。

次ページ平成の興味深いところは…
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事