「アイドルの作られ方」が激変した根本理由 平成アイドル史、この30年で何があったのか

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大きく見れば、これらは先述したアイドルのパートナー化、アイドルとファンの接近の産物である。ただしここでは実体が希薄になった分、アイドルはいつも傍らにいるマスコットのような存在になっている。現在のテレビは、そうしたタイプのアイドルの供給源としての意味合いを強めていると言えるだろう。

ソロアイドルの復権はあるか?

ここまで、ドキュメンタリー性と多様化の観点から平成のアイドル史をたどってきた。この2つのベクトルは無関係なわけではなく、交わっているところもある。

例えば、近年のアイドルグループの大人数化は、ドキュメンタリー性にキャラクターによる多様化の要素を加えたものだ。オーディション番組出身の多国籍K―POPアイドル・TWICEもその一例だろう。またさくら学院の「部活動」から発展し、「世界征服」を掲げるヘヴィメタルユニット・BABYMETALは、音楽性がそのままキャラクターになった稀有な例である。

逆に多様化のなかでドキュメンタリー性が重要な役目を果たすこともある。福原愛や浅田真央のようなスポーツ選手、芦田愛菜や本田望結のような子役は、世間が成長をずっと見守ることによってアイドル的な存在になった例だ。

しかし、そのなかで大きな空白も生まれている。代表的なソロアイドルの不在である。昭和の山口百恵や松田聖子、郷ひろみのような存在はいない。なるほど芸能界以外のアイドルは多くの場合ソロだが、やはりあくまで“アイドル的”存在である。むしろ「アイドル」の拡散が進めば進むほど、その不在感は増す。

おそらく今昭和のソロアイドルに最も近い生身の存在は、若手俳優だろう。菅田将暉や有村架純などまだ年若い俳優がこれほど次々と登場し活躍する時代も珍しいのではないか。彼や彼女もまた、ジャンルは違うが昭和のアイドル歌手と同じフィクションの世界を生きる。能年玲奈(のん)が主演した13年のNHK朝ドラ「あまちゃん」は、まさにフィクションという枠組みのなかで昭和と平成のアイドル歌手が邂逅する傑作だった。

そうした兆しは、CM出演をきっかけにアイドルから女優への道を歩んだ90年代の宮沢りえや広末涼子からあった。今で言えば、新垣結衣がそれに近い。16年のドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(TBSテレビ)でブームになった「恋ダンス」に、彼女のブレイクのきっかけになったお菓子のCMでのダンスを思い起こした人もいるはずだ。その点、ドラマや映画が彼女のプロモーションビデオ的役割を果たしている側面もある。

さらにここ最近、アイドル歌手にも“昭和回帰”を思わせる流れが垣間見える。

現在トップクラスの人気を誇る乃木坂46は、衣装や曲調からも「清純派」的な雰囲気が伝わってくる。また「総選挙」のようなイベントはなく、AKB48と比べるとファンとのあいだに一定の距離がある。そこには全体的に昭和のアイドルの匂いがある。

また同じ“坂道シリーズ”の欅坂46も、センターの平手友梨奈を中心にした演劇的パフォーマンスに、これまで平成のアイドルにはなかったような空気感がある。大人や世間への反抗を歌う一連の楽曲も、どこか懐かしい。とは言え、こうした動きがすぐにソロアイドルの復権につながるかどうかはわからない。ソロアイドル中心だった昭和のアイドルを支えたテレビ自体がインターネットの普及などで転換期を迎えている現在、単純にソロアイドルの時代が再び来るとは言いにくい。元SMAPのメンバーによる「新しい地図」もそうだが、今後のアイドルのあり方がメディア状況の動向に大きく左右されることだけは間違いない。

太田 省一 社会学者、文筆家

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おおた しょういち / Shoichi Ota

東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。それを踏まえ、現在はテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、歌番組、ドラマなどについて執筆活動を続けている。著書として『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『平成テレビジョン・スタディーズ』(青土社)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『芸人最強社会ニッポン』(朝日新書)、『SMAPと平成ニッポン』(光文社新書)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)などがある。

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