そして、3つ目。精神的にも経済的にも自立した「晩婚さん」の暮らしには余裕があることだ。山あり谷ありの結婚生活を朗らかに続けていくには、社会人としての実力がいる。もともとは他人だった結婚相手の短所を許容し、補い合い、ときにはビシッと注意する。ある程度は大人として自立した人間同士でなければできないことだ。
大人2人が支え合うことで、ゆとりのある生活になる。それは大きな余剰エネルギーを生み出し、家族だけでなく周囲にも良い影響を与えることがある。自分たちには実子がいなくても、里親として「みんなの子」「地域の子」を自宅で育てている晩婚さんもいた。
「晩婚で後悔」している人もいる
ここまで「晩婚で正解」と話してくれた人たちの例を挙げてきた。それでは、取材した100人の中で、「晩婚で後悔」と率直に明かしてくれた21人はなぜそのように語ったのか。
最大の理由は不妊だ。結婚相手との生活が愛情に満ちているからこそ、「子どもが欲しい」と強く願う人は少なくない。ようやく生まれてきた子どものかわいさに驚愕し、2人目ができにくい年齢に達してしまったことを悔いている人もいた。「息子が大きくなったときにはすでに自分は年老いている。仕事を教えてあげられない」と嘆く自営業の男性もいた。
若い頃はおカネがなかったり、闘病生活をしていたことが理由で結婚できなかったというケースもあった。彼らも「晩婚でよかった」とは決して口にしない。現在の結婚生活があまり楽しそうでない人も少数ながら登場してくれた。彼らはそもそも結婚には向いていないのかもしれないし、晩婚であっても相手選びを間違えてしまったのかもしれない。
来週掲載予定の回で登場する46歳の女性は、自らの晩婚を惚気(のろけ)ぎみに「後悔」してくれた。結婚がこんなに楽しいともっと早くに気づいていればよかったのに、と悔やんでいるのだ。自分には結婚生活は絶対に無理だとずっと思っていたが、実際は違った。驚くほど快適だ。
「でも、早くに結婚してしまっていたら、現在の夫には出会えなかった。だから、今の年齢で結婚したのがちょうどいいのだと思います!」
3年半前に本連載を始めたとき、もっと暗くて深刻な内容になると予想していた。しかし、やたらに楽しそうな晩婚さんが予想外に多く、語り合ううちに筆者も日々の晩婚生活を前向きにとらえ直すことができた。
夕方、仕事場から帰ってきた妻が料理をしている間に、筆者は風呂に入り、洗濯物を畳んだり食器を並べたりしながら気分を高める。準備ができたら、ちょっとした炒め物か焼き物でビールを飲む。そして、ワインか日本酒に切り替えて鍋物などのメインを食べる。
飲み足りない夜もある。妻が風呂に入っている間に食器を洗って片付け、同じ食卓の隅に移動する。テレビを観ながらの2次会だ。つまみは板海苔やみそで十分。
夕食の間、妻とあれこれとしゃべりまくる。仕事や人間関係のちょっとした悩み事や心配事は薄らいでいく。食後は歯を磨いて寝るだけ。安心でリーズナブルでおいしくて楽しい。夢というのは、将来における目標達成だけではなく、今晩の食事にも存在するのだとようやく知った。
約8割の人が「遅い結婚でも幸せになれた」と慎ましい笑顔で語ったという事実は、晩婚さんおよび晩婚さん予備軍に励みになることだと思う。自己肯定でもいいじゃないか。今までの失敗や後悔を「成功への糧」と受け止められることは、運命共同体のようなパートナーにようやく恵まれ、安心と自由と喜びにあふれた生活を送っている証拠だと思う。人はいつでも結婚できるし、それによって幸福を得られるのだ。
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