「悪の手引書」編み出した男の強烈なとがり方 とにかくたくましく能天気に、したたかに

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震災後はかなり厳しかったが、その後も出版を続け立ち直っている。

現在では30年以上、毎年発行している、東京大学理科三類に合格した約40人の入学生にインタビューをして作った『東大理III 合格の秘訣』、大企業や大学でセキュリティの基本図書として使われている『ハッカーの学校』シリーズなどが好調だ。

思い入れはないほうがいい

最後に30年以上にわたりさまざまな本を作ってきた鵜野社長に「売れる本の作り方」を聞いた。

「本はなにより企画がいちばん大事ですね。でも

『僕はこれが作りたいんだ!!』

というような思い入れはないほうがいいです。好き好みのせいで発想が制約されてしまい、企画が狭くなりがちです。

『この企画がいちばんうまくいくんじゃないか?』

という考え方をしたほうがいいと思います。むしろ興味のないジャンルのほうが、内容にこだわりがなく、売れることだけにこだわるので、うまくいくことがありますね。

慣れによる思い込みや惰性はよくありません。つねに新鮮な気持ちで必死に向かうことが大事です」

思い入れがないほうがよい、とは目からウロコの意見だった。どうしても好きな物をこだわって作った本のほうがいい気がする人が多いだろう。

「あとタイトルですが、作者がタイトルを決めると思い入れが強くてダメな場合が多いですね。『内容に拘束されたタイトル』じゃなくて『手に取りたくなるタイトル』をつけないといけません。ちょっと身もふたもないくらいわかりやすいタイトルのほうが読者には受けると思いますよ。

これは絶対じゃないんだけど、タイトルも内容もネガティブなものより、ポジティブなもののほうが受けると思います。ネガティブなものにひたれるのは、豊かな時代のぜいたくです。大半の人が、未来に幸福が見えない時代ですから、みんな楽しそうな本のほうが読みたいでしょ? 『こうして損をした』ってタイトルの本より『こうすれば儲かる!!』のほうが読みたいですよね?

これからの時代は本当に出版に限らず、個人や小さな会社は生きて残るのが大変だと思います。ヒット本が出るチャンスはあると思いますけど、コンスタントに出版活動を続けるのは難しいでしょうね。

その中で自分に何ができるか? とにかくたくましく能天気に、したたかに生きるしかないな、と思ってます。

これからも、その時にやりたいこと、その時に自分ができることを思い切り楽しみながらやっていきます」

そう語る鵜野社長は本当に根っからポジティブな人だった。

村田 らむ ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター

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むらた らむ / Ramu Murata

1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。

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