そんな景気のよかった1995年。1人の編集者、ライターがデータハウスに企画の持ち込みにやってきた。青山正明さんである。
ドラッグやカルト・ムービーなどをテーマにした露悪的な作品が人気のカリスマ的編集者、ライターだった。
「秘密本で余裕のある時期だったので、だったらこっちに来たら(データハウスの社員になったら)と声をかけました」
そして青山さんは、データハウスの社員になった。
鬼畜系ブームを巻き起こして異例の大ヒット
そしてドラッグ、変態、フリークスなどをテーマにした『危ない1号』を作り、サブカル界としては異例の大ヒットになった。
『危ない1号』の執筆者の中には、町山智浩さん、平山夢明さん、吉田豪さん、などなど現在も活躍している人がたくさんいる。
「『危ない1号』は10万部くらい売れたんじゃないかな? 続刊もそれなりに売れました。ただ彼は1年に1冊しか本を作らないんだよね(笑)。めったに会社にも来ないし……。『企画頑張ります!!』ってキラキラした目で言ってくるんだけど3日も続かない。気力が尽きちゃうんでしょうね。
うちに来た段階で燃え尽きていたのかもしれないな、と思います」
青山さんはデータハウスの社員時代、薬物使用で逮捕されるなど問題も多かったが、社長から見ると
「かわいらしい、すがすがしい青年だった」
という。
『危ない1号』は1999年に発売された第4巻をもって終わった。そして2001年、青山さんは自宅で亡くなった。
「『危ない』系の本は今は絶対ダメですね。『危ない』のに興味を持つのは、経済的に余裕がある時なんですよ。どうやって食っていくか大変な時代に、『危ない』とかそんなことは言ってられない。こういう“すねた本”がうけるのって実は貴族文化なんですよ」
2000年代に入り、世の中は徐々にコンピュータ時代になっていった。そこで出した『コンピュータ悪のマニュアル』はオタク層に受けて10万部のヒットになった。
第2弾はCDをセットにして販売し、これも10万部売れた。
2008年くらいから、再び秘密本が売れはじめた。そしてコンピュータ系の本もよい成績を出していた。
そんな折、2011年東日本大震災が起きた。
一気にすべての本が売れなくなった。
「さっきの話の続きのようになるけど、やっぱり生活に余裕がないと本は買わないですよね。水やインスタントラーメンも買えないのに、誰が本を買うかって話です。生命を保つことで精いっぱいなんですね。
地震以降、世の中が無駄遣いはしないという流れになって、売れてた本も全部売れなくなりましたね」
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