電話以外でも、吃音症により日常生活全般で困っている。たとえば、飲食店でまともに注文ができないので、メニューを指差して注文することが多い。実際、インタビューを行ったカフェでも、湯川さんはメニューを指差してドリンクを注文していた。
一時期、マクドナルドがレジ前のメニュー表を外したことがあったが、その時期はマクドナルドから足が遠のいてしまったという。また、どうしても声を出さなければならない際はスマホに文字を打って見せたり、郵便局には筆談用の小さなホワイトボードがあるので、それを活用したりしている。
吃音症は幼少期から青年期にかけて発症するパターンが多いが、まれに大人になってから発症することもあるそうだ。湯川さんは後者のタイプで、社会人3年目のときに発症した。吃音症はまだ原因や治療法が明らかになっていない部分が多く、最近になって厚労省が本格的に調査し始めたところだ。
「声が出にくいなと感じたのが発症に気づいたきっかけです。当時の仕事が完全にオーバースペックだったので、かなりストレスを感じて鬱になってしまい、精神科に通院し始めた頃です。それまでは登山やスキーといったアウトドアが好きだったのですが、休みの日は引きこもるようになりました。そして、声が出にくいことを意識し始めたら本当に声が出てこなくなりました」(湯川さん)
吃音症により友人も失った。同期で仲良くしていた友人が数人いたが、その中の一人が湯川さんの吃音症をバカにしてきたのだ。それ以来彼らとは絶縁している。
「私はネット上で吃音症当事者とつながり、何度か当事者の会にも参加しました。そこでは、吃音が原因となって学校でいじめを受けたり、中退したり、この空前の売り手市場の中の就職活動で1社も受からなかったりと、さんざんな目に遭っている人がいることを知りました。吃音は発達障害の一つと国が位置づけていて、精神障害者保健福祉手帳を取得できる障害です。当事者の苦しみを知っているからこそ、吃音を笑うという行為がどうしても許せませんでした」(湯川さん)
仕事の内容次第では驚異的な能力を発揮することも
吃音症についてはまだまだ世間の認知度は低い。しかし、ADHDやASDについての認知度は上がってきている。それでも、発達障害に関し偏見や誤った知識も飛び交っている。そんな状況を湯川さんはこう語る。
「偏見は仕方がないと思います。発達障害がメディアに取り上げられることも増え、知名度は上がりましたが、知らない人もまだ多いはずです。より多くの人に知っていただき、理解がある人を増やしていけたらと思います。否定的な人たちには、たまたまあなたの子どもが『正常』なだけで、もし自分自身や親しい人が発達障害だったらどう思いますか?と聞いてみたいですね」(湯川さん)
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