「低学力の生徒にこそeラーニングが必要だ」 すららネット社長ロングインタビュー
湯野川:ご指摘のとおりで、現地の子どもたちは算数の繰り上がりや繰り下がりの正答率もかなり低いのが実情で、開拓の余地は大きいと言えるでしょう。ただ、まだ当社の規模で単独展開は予算的に厳しいので、当初はJICAの援助を受けながらインドネシアやスリランカへ展開をしています。最近ではインド市場の攻略も始めました。日本では正答率が年間に1〜2割もアップすれば結果は上々で、3割にも達すればかなりの好成果ですが、新興国の子どもたちは2倍、3倍といった伸びを示します。「忍者ハットリくん」や「ナルト」といった日本のアニメを見て育っているせいか、現地で展開している「すらら」に登用している忍者のキャラクターも好評です。
小林:なるほど、コンテンツビジネスの側面もあるわけですか。ただ、海外についてはかねてから公文式なども進出していますね。
湯野川:公文やベネッセも海外で塾を積極展開していますね。ただし、人が教える従来型の塾を途上国展開しようと思うと、どうしても日本円に換算した月謝が3000〜4000円台になり、結果的に中間所得層以上の人たちにフォーカスせざるを得ないのが現状です。しかし、我々なら現地のローカル価格の水準に合わせて提供できますし、しかも日本のノウハウが詰まったデジタル教材で学べるわけですから、販促を行なえば生徒は集まります。さらにスリランカでは、もっと貧しい層へのアプローチも行っています。現地には女性銀行というマイクロファイナンス(貧困層向けの小口金融)組織があり、スラム街にあるその支部の一角で数台のPCを持ち込んで教室を開いているのです。月謝についても、彼らが支払える範囲の金額を頂戴しています。また、この教室で指導しているのは現地の女性たちで、我々が数日間の研修で指導したうえで彼女たちを採用し、現地における雇用機会の創出にも一役買っています。
小林:国内から国外まで、これまで他社がなかなか開拓できなかったマーケットを巧みに攻略しているわけですね。他には、これからどのようなことに力を入れていく方針ですか?
NPOなどが取り組んできた領域
湯野川:数年前に研究を進めて2017年から展開を始めたのが発達障がい・学習障がいをもつ生徒向けのeラーニングです。1人1人に合った教え方を用いれば、そういった障がいに悩む子どもたちに適切な学びを届けることは十分に可能だからです。小さい時に適切な学習さえできれば、映画俳優にでも大学教授、経営者にでもなれるんです。ハリウッド俳優のトム・クルーズもディスレクシア(失読症:文字の読み書きに関する学習障がい)を克服して大きな成功を収めました。そういう障がいを持った子ども達にはeラーニングが有効であることはわかっているものの、体系的にきちんと学べる教材がないと聞き、ならば我々が作ろうと思いました。しかも、我々の「すらら」を用いれば、塾や学校以外の場でも彼らに教育を提供できるようになります。たとえば、「放課後等デイサービス」という発達障がいのある就学児向けの学童保育施設や、子ども食堂では、通常、勉強を教えてはいません。しかし、「すらら」を入れると既存の人材でそれが可能となるわけです。発達障がい・学習障がいの子ども達は、二次障がいとして不登校に陥っているケースも少なくないだけに、非常に社会的にも意義深いと思っています。
小林:これまでNPOなどが取り組んできた領域でもありますね。
湯野川:NPOが取り組んでいることの多くは、ベンチャーにとって大きなビジネスチャンスとなりうるものです。なぜなら、悩みが非常に深くて、他に誰もやろうとはしないからです。我々のようなクラウド型のサービスであればと採算も十分に合うので、そういった領域にもビジネスを広げることが可能です。
小林:なるほど、御社のコンサルティング力とコンテンツ力の掛け算で、これまでビジネス展開が困難だった領域への展開の可能性が広がってきているわけですね。本日はありがとうございました!
(ライター:大西洋平)
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