パナ津賀社長が考える35事業部制のさばき方 「未知なる世界に中のリソースでは不十分」

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長田:過去に180もあったといわれる事業部を35にしたとはいえ、これほど超多角化した組織を1人で統治するのは、もはや人智を超えているのではないかとも思います。

津賀 一宏(つが かずひろ)/1956年生まれ。1979年大阪大学卒業後、松下電器産業(現パナソニック)入社。AV機器部門トップ、専務などを経て2012年に創業家除く最年少で社長就任(撮影:ヒラオカスタジオ)

津賀:事業部制とは、もともと、創業者の体があまり強くない中で、次世代の経営者をいかに育てていくかというプロセスで行われてきました。事業部がある程度の数があっても、それを自主責任経営で回していくのが事業部制の基本です。35は多いにしても、10にしなければ身が持たないという仕組みではない。

とはいえ、(事業が高度化、複雑化し)身が持たないということも現実になってきているので、4つカンパニー制を敷き、それぞれのカンパニー長が社長になり代わり、各事業領域を見ていく仕組みにしています。

4つのカンパニー長とは、長くても2週間に1回は密にコミュニケーションしている。だから事業部の数が35あるから問題だ、という意識はありません。

私が考えているのは電池と中国の事業についてです。35の事業があるからといって、電池と中国以外はあまり考えていません。(経営戦略論では、社長には事業戦略の上位にある全社戦略が主なミッションであると定義されているので)35の事業があるからといって、それらの事業をすべて把握し考えているわけではありません。

トヨタとパナソニックは、右と左ぐらい会社の形が違う

長田:大企業の経営においては、多角化が一般化していますが、そもそも人間の脳には、マルチタスクに限界があります。パナソニックと電池で協業することになったトヨタ自動車を、(経営学者)ルメルトは多角化のカテゴリーで「専業企業」に定義しています。正直言って、トヨタの経営が楽に見えませんか。

津賀:トヨタの経営は大変だと思います。グローバルであれだけ大きな企業でマトリクス組織の経営をしていくことはすごいことだと思います。われわれは35の事業を抱えていますが足し算に過ぎません。彼らは掛け算でやっていますから、35の事業など簡単に超えてしまいます。複雑度はずっと高い。

それだけに、社長になり代わり、自動車事業だけでなく、グローバル事業の全貌を見られるような人をキャリアパスにより育てていく。われわれは、35の事業は比較的独立しているから、トヨタのような問題はない。1つの事業部を見れば、その他の事業部もだいたいこんなもんだろうというところもある。複雑度はパナソニックのほうがだいぶ低いと思われます。

(中村邦夫・元社長は、「パナソニックは中小企業の集合体」と表現していた)。中村さんがどう意味でそのようにおっしゃったのかわかりませんが、グローバルな比較的視点から見れば、中小企業ということになりましょう。その意味では、われわれは、35の異なる専業に徹することができる「中小企業集団」の強みを持っていますが、トヨタは、1つの強みしか持っておられないのかもしれません。

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