SNSで炎上する会社とファン動かす会社の差 本物の体験と動機を理解しなければならない
2011年の末、20代の青年エヴァン・カーが、サージの復刻を呼びかけるフェイスブックページ、「サージ・ムーブメント」を立ち上げた。このページ上では、「ファンによるカスタマーサービス」ともいうべき文化が生まれた。活動への参加方法や、活動方針に関してわからないことがあったら、管理人より前にファンが優しく教えてくれる。
外の誰かがこのページを荒らしに来て、参加者に「目を覚ませ」と説教したときには、ファンたちがその荒らしを相手にしないようお互いをなだめたり、「いちゃもんつけないで」とか「時間のムダだと思うなら出ていけ」と対応したりしていた。コミュニティに根付いたファンたちは対応がうまく、コミュニティの精神を正確に代弁できる。サージコミュニティのメッセージは素早く隅々まで広まった。
コミュニティの外のサージファンや「90年代文化」のファンに、サージ・ムーブメントを広めて参加を説得したのもまた、同じファンたちだった。一連のシェア可能なコンテンツを作ったファンもいた。ビンテージのサージ缶を握っている手の写真、ロゴのスケッチ、サージをテーマにしたハロウィーンの衣装、サージに合う食べ物の推奨。いろいろなアドバイスも集まった。
2013年のはじめには、サージ・ムーブメントの看板広告を立てるプロジェクトが、クラウドファンディングサイト「インディゴーゴー」で始まった。コミュニティ内のファンが支援者となり、友達に口コミで広めた。500ドルを寄付した支援者もいた。1月中に目標の3745ドルが集まり、翌月にはジョージア州アトランタのコカ・コーラ本社脇の道路に新しい看板広告が作られた。そこには「親愛なるコカ・コーラ様、サージを買えなかったので、代わりにこの看板を買いました」と書かれていた。
「サージデー」の活動も行われた。ファンはよくコカ・コーラの顧客サービスに電話をして、サージの復活を訴えていたが、月イチで毎月同じ日にみんな示し合わせて電話をすると、圧倒的な呼びかけになった。
そして、2014年9月、サージは復活した。あのピカピカの緑の缶、なんとも言えないシトラス風味、草色でシュワシュワの甘味が、突然アマゾンで売り出されたのだ。その頃にはサージ・ムーブメントのフェイスブックページには15万人が登録していた。ムーブメントの創立者・カーは、コカ・コーラ・ノースアメリカの社長から個人的にメールを受け取り、最初に発売を知った。カーと2人のコミュニティリーダーは、コカ・コーラ本社で開かれる公式復活イベントに招かれた。
コミュニティは大騒ぎだった。アマゾンの買い物かごをサージでいっぱいにした画像が次から次へと投稿された。第1弾はすぐに売り切れた。数日もすると世界中のサージファンが、手に入れた商品の写真をアップした。希少なサージの缶を友達や家族やペットの前で開けているファンの写真がたくさん流れ込んだ。ファンたちが高校時代に経験したような、サージを片手に仲間といい気分で過ごす時間が、そこにシェアされていた。
ファンを利用しようとする企業は失敗する
このように、現代のファンはかつてないほどの力を持ち、これまでにないほど真剣に、ファン活動に参加したがっている。だが、ファンの熱狂が、商品を売り込んでいいという許可証になると思うのは間違いだ。
企業はファンの集団を自分たちの利益になるかどうかという観点で見ることに慣れっこになっている。SNSでバズったら、売り上げが確保できると考える。企業がファンの側に立って考えることはほとんどない。特にソーシャルメディアは、極めて個人的な空間だ。邪魔をされたと感じたり、利用されたと感じたりすると、ユーザーはとても不快に感じる。
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