SNSで炎上する会社とファン動かす会社の差

本物の体験と動機を理解しなければならない

ひとつ例をあげよう。

2012年、米マクドナルド社は「#あなたのマクドナルド・ストーリーをつぶやいて」と題したキャンペーンをツイッター上で立ち上げた。どんなに健康志向の人でも、放課後やクラブ活動のあとに同級生とマクドナルドでハンバーガーをほお張った懐かしい思い出があるはずだ。

企画者は次のように考えたのだろう。幸福なファンから寄せられた140文字のストーリーは、ファンの友達や、またその友達に拡散されるに違いない。マクドナルドファンとして「カミングアウト」してくれれば、ほかの人もまたマクドナルドに行ってみようという気になるだろう、と。

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問題は、企業側に個人の発言をコントロールする手立てがまったくないことだった。マクドナルドの場合には、幸福な思い出より不幸な思い出をつぶやきたい人のほうが多かったのだ。ツイートは、警告めいたもの(「昔マクドナルドで働いてた。オレの話を聞いたら、髪の毛が逆立つよ」)から、直接的な批判(「マクドナルドに入ったら、体に悪そうなにおいが充満してて、思わず吐いてしまった」)までさまざまだった。マクドナルドはわずか2時間でハッシュタグを使った報酬制プロモーションを中止したが、ツイートがやむまでに数カ月はかかった。

ファンとの本物の関係を作りたいと思うなら、ファンの本物の体験と動機を理解しなければならない。ファン体験はこうあるはずだという幻想を抱いても仕方ない。マーケティングのテクニックの上に「本物らしさ」をふりかけても、本物にはならない。

宗教にも似たファンの熱狂

映画のロケ地やアニメの舞台を訪れることを「聖地巡礼」、好きなものを他人に広めることを「布教」と表現することにも表れているように、ファン活動は宗教に似た要素を持っている。初音ミクの事例に見られるようなコンテンツ創造はその最たるもので、いわばファンからの「捧げもの」だ。

日本では2次創作が盛んだ。ファンが見たり読んだり買ったりするだけでなく、なんらかのコンテンツを作ってくれているというのは、企業にとってそれ自体がすばらしいことだ。脳のなかでファンになるときに使われる領野というのは、宗教を信じるときに活動する領野と同じだとする研究がある。脳にとっては、教会も『スター・ウォーズ』も大差はないのかもしれない。ソーシャルメディアが普及し、ファンの発信や創作活動が活発化しているからこそ、企業側は細心の注意と敬意を払って、それらと向き合うべきだろう。

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