相手が動くかどうかはわからない
「コミュニケーションはシンプルにすべき」ということがよく言われる。
私は米国を中心に海外IBM社員と一緒に仕事をする機会が多かった。確かに米国人のコミュニケーションはシンプルだ。
多くの米国人はプレゼン慣れしている。プレゼン文化があるためだ。それは幼稚園の頃からはじまる。身の回りのことをみんなに説明する、“Show and Tell”という時間が与えられるのだ。目的は、他人に自分のことをわかってもらう楽しさを体験することだ。
さらに、小学校、中学校、高校、大学と、人前で自分の考えを発表する経験を積み重ね、「わかりやすく、シンプルに、堂々と」伝えるスキルを、時間をかけて身に付けていく。米国人がビジネスでも、シンプルなロジックでプレゼンするのを得意としているのは、幼い頃からの訓練の賜物だ。
だが、わかりやすさを追求する米国式のやり方に、私自身は違和感があった。米国人のプレゼンを聞いても、話の内容が簡潔すぎて、中身がないと感じていたのだ。
彼らは当たり前のことを堂々と言う。自信たっぷりに言い切るので、一見、説得力があるように思うのだが、よく考えてみると「そんなの当たり前ではないか(言われなくてもわかっている)」ということが少なくない。実際、文字に書き起こすと、退屈で中身がスカスカだったりするのである。
しかも、中身がないから、こちらが突っ込んだ質問をすると、「なんであなたはこんな当たり前のことを理解しようとしないのか?」という顔をされる。
そういう経験をしていたので、私自身は、米国流のシンプルなだけのコミュニケーションでは納得できなかった。納得できないことは、自分でもやろうとは思わない。そのため、丁寧に言ってもダメ、シンプルすぎてもダメ、という袋小路に陥ってしまったのだ。
意外と見落とされがちな「パッション」
では、どうすればこちらの意図を伝えることができるのだろうか?
じつは、『100円のコーラを1000円で売る方法』シリーズ第3巻の中盤にヒントが書かれている。
「要は『三つのダントツ1位』ってことですな。一つずつご紹介しましょう」(第3巻77ページ)
グローバル会計ソフト大手ガンジーネットの清水広報部長は、2万人が視聴するネット番組で、ライバルである駒沢商会、バリューマックス社の製品と比較して、自社製品の優位性を説いた。清水部長が用意したフリップには、3つのメッセージと事実(根拠)が列挙されていた。
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