幼い頃から読書が好きで、高校は地元の進学校を卒業。大学のレジャーランド化が指摘され始めた1980年代、志望大学は教授たちの著作物やメディアでの発言などを基に選び、授業は欠かさず出席する生真面目な学生だった。飲み会やサークル活動に精を出す周囲を見て、「教える側にもっと工夫が必要なのではないか」と考えるようになったことが、大学教員を目指すきっかけだったという。その後、博士課程に進んだが、経済的な事情などから博士号を取る前に退学。大学の非常勤講師の仕事に就いた。
当時は文系、社会学系などに限れば、大学院博士課程の修了時に博士号を取得できる人は多くなかった。大学教員として研究を重ねながら博士号を目指す人は大勢おり、ススムさんが非常勤で働くことを優先したことは無謀なことでも、珍しいことでもなかった。
ところが、1990年代以降、文部科学省の政策転換もあり、博士課程修了と同時に博士号を取得することが一般的になる。さらに少子化や国の予算削減の中、各大学は人件費を抑えるために非常勤職員を増員。同省が東京大学や早稲田大学など主要11大学を対象に行った「大学教員の雇用状況に関する調査」によると、専任教員などの「任期無し教員」は2007年度には1万9304人だったが、6年後の2013年度には1428人減の1万7876人に。非常勤講師などの「任期付き教員」は7214人から4301人増の1万1515人になった。
博士号取得者は増えているのに、安定した正規雇用枠は減っていく――。任期付き教員の増加は主に若年世代が直面する問題とはいえ、ススムさんも減り続ける専任教員の枠を、博士号を持つ若手と争わなければならなくなったのだ。
これまで200件ほどの公募に応募してきた中で、厳しい状況は肌で感じている。「若い頃は、1件の公募に集まるのは4~5人、多くても十数人でした。でも、最近、不採用になった公募には100人近くが殺到したそうです。専任教員になることがここまで難しくなるとは、正直予想できませんでした」。
「非常勤講師」と「専任教員」の間にある格差
非常勤講師と専任教員では、給与格差が大きい。ススムさんによると、同世代の専任教員で担当するコマ数が同じ場合、給与はおおむね自分の5倍だという。また、昨春まで非常勤講師の雇い止めをめぐる紛争が続いていた早稲田大学では、非常勤講師らでつくる労働組合「首都圏大学非常勤講師組合」と大学側の交渉の過程で、専任教授と非常勤講師が同じく週4コマの授業を担当した場合、年収に10倍近い開きが出ることも明らかになった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら