「追い出し屋」に全て奪われた50歳男性の苦悩 家賃滞納を機に部屋だけでなく家財も失った

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ケイタさんは、両親の写真と母の形見のマグカップを奪われた(筆者撮影)
現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。今回は家賃滞納で住んでいたアパートから突然、締め出され、家財を撤去されるという被害に遭ったケイタさん(50歳)のケースに迫る。

 

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何かが違っている。家賃滞納でアパートを締め出されて1週間あまり。路上から、2階にある自室の窓を見上げたとき、違和感を覚えた。「あれ、カーテンがねぇな」。慌てて玄関まで駆けつけてみると、以前、入室を阻んでいた特殊な施錠具はすでに取り外されていた。恐る恐る扉を開けると、室内はもぬけの殻。テレビに電子レンジ、食器、掃除機、衣類、布団、すべての家財道具が持ち去れていた。

東京都内に住むケイタさん(50歳、仮名)は2年前、住んでいたアパートから突然、追い出され、家財を撤去されるという被害に遭った。「(亡くなった)両親の写真も、母の形見で僕が普段から使っていたマグカップも。すべてのものを持っていかれました。両親の写真はあれっきりだったのに」。

アルバイトや日雇い派遣で両親の面倒を見ていた

専門学校を中退後、自動車部品やコンピュータ関連などいくつかの工場に勤務。長時間残業で体調を崩したこともあったが、いずれも正社員で、生活に困らない程度の収入はあった。しかし、長引く不況で当時勤めていた工場が閉鎖、遠方への転勤か、退職を迫られる事態に。この頃、母親ががんを、父親が認知症を発症したこともあり、ケイタさんは仕事を辞め、アルバイトや日雇い派遣をしながら両親の面倒を見ることにしたという。そして、相次いで2人を看取った後、遭遇したのがリーマンショックによる派遣切りである。

ちなみに、両親の家は持ち家だったが、この家には兄とその家族が住むことになり、ケイタさんは賃貸アパートへと移った。彼は多くを語らないが、兄は両親の介護に一切かかわろうとせず、そのことをめぐって関係がこじれた。ただ、生来、他人と揉めるのが好きではない性格で、結局は兄の望みどおりに実家を譲り、代わりに一切の縁を切ったのだという。

派遣切りに遭い、賃貸アパートに移った後は、介護の仕事に就いて資格も取ったが、ストレスが多く、2年前、突然、持病の糖尿病が悪化。いったん退職して1カ月ほど自宅療養した後、別の職場を探すつもりだったが、折悪しく、正規採用の求人が見つからなかった。やむなく日雇い派遣で食いつないだが、交通費が自腹のうえ、仕事にありつけない日も多く、あっという間に、水光熱費の支払いにも事欠くようになり、2カ月分の家賃計8万円を滞納する状態に追い込まれたのだという。

追い出し行為は一方的で、性急で、悪質だった。

次ページ玄関に補助錠が設置されていた
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