「追い出し屋」に全て奪われた50歳男性の苦悩 家賃滞納を機に部屋だけでなく家財も失った

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確かに、マスコミなどで話題になるのは、必ずと言っていいほど職員から高齢者への虐待で、高齢者から職員への暴言、暴力に関心が寄せられることはあまりない。

介護業界で働き始めて10年たらず。ケイタさんは両親の面倒をみる中で、介護の仕事を身近に感じるようになったといい、きっかけは派遣切りによる失業だったが、転職は自然な流れだった。身体機能が回復していく入居者を見るとやりがいも感じるという。一方で、心身ともにしんどい仕事なのに、社会の評価は低く、報われない。追い出し被害に遭う端緒となった糖尿病の悪化について、彼は「(入居者による暴言、暴力をきっかけとした)精神的ストレスが原因だったのではないかと思います」と打ち明ける。

話を家賃保証会社による「追い出し行為」に戻す。

はたしてこれは許される所業なのか。結論としては、住まいからの一方的な締め出しや鍵の交換、家財の処分は原則、違法である。確かに、ケイタさんは家賃を滞納したが、関連の現行法には、相対的に弱い立場にある借り主を保護する目的もあり、相当程度の事由や裁判所からの許可などがなければ、貸し主側は借り主を簡単に追い出すことはできない仕組みになっている。もし、「滞納するほうが悪い」という自己責任論だけがまかり通れば、世の中は弱肉強食の無法地帯となり、ホームレスが急増することになりかねない。

一方、家賃保証会社がかかわるトラブルは、リーマンショックの頃から増加しているとされる。家賃保証会社は連帯保証人に代わって滞納家賃を肩代わりするほか、家賃の督促も行う。雇用や収入が不安定化する中で、アパートなどを借りる際、大家側から家賃保証会社との契約も併せて求められるケースが増えており、これに伴い、一部業者による違法行為が横行しているのだ。こうした業者は「追い出し屋」とも呼ばれ、社会問題となってきたが、直接的な法規制や監督制度はないのが実態である。

ケイタさんは追い出し屋とどう渡り合ったのか。

彼は必死の思いで家賃保証会社を相手取り、損害賠償を求める裁判を起こした。結果は勝訴。判決では、「(家財撤去行為は)窃盗罪または器物損害罪に処せられるべき」との文言まで勝ち取った。「家賃を払えなかった自分にも非があるけど、こんな一方的なやり方はおかしいと思ったんです」。

追い出し屋はなぜ野放しなのか

しかし、現在、ケイタさんの心中はいまひとつ釈然としない。追い出し屋問題をめぐっては、彼が提訴する以前から、別の裁判でも家賃保証会社が敗訴する判決が相次ぎ、マスコミでも話題となり、一時は国会でも業界に対する規制や登録制度を盛り込んだ法案が審議された。しかし、結局、法案は廃案となったまま、世間の関心もしだいに薄れていってしまったのだ。「家賃を滞納した人は自分だけが悪いと思ってしまいがちです。今も、泣き寝入りしている人が大勢いると思います」。

一貫して思慮深く、落ち着いた物言いをするケイタさんが「以前、消費者金融による強引な取り立てで自殺者が大勢、出たときは(業者を)規制する法律ができたのに、なぜ、追い出し屋は野放しなんでしょうか。自殺者が出ないと国は対策をしてくれないのでしょうか」と問いかけてきた。彼は、このまま高齢化が進み、自分のように生涯独身で周りに頼れる家族がいない人たちが増えていけば、追い出し屋被害はいずれ取り返しがつかないほどに深刻化するだろうとも言う。

ケイタさんは現在、介護の仕事に復帰している。現在の収入はこの業界にしては悪くない。しかし、持病を抱えながら、心身ともにストレスのかかる仕事を低賃金でこなしている状況には変わりなく、「追い出し屋」問題は相変わらず、明日はわが身である。そして、何より、奪われた両親の写真と形見のマグカップは二度と戻ってくることはない。

藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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