通過する特急列車に飛び込もうとした。そのときだ。すぐ隣で、影のようなものが一瞬早く身を躍らせるのが見えた。スーツ姿の女性だった。今年4月、関東近郊のあるJR駅構内。まさか、先を越されたのか? 呆然としていると、あっという間に周囲は野次馬たちで騒然となった。彼らは遺体や駆け付ける駅員の様子をスマートフォンで撮影し、SNSへと投稿し始めたという。
朝から雨が降る、肌寒い日の出来事だった。派遣専門の介護職員として働くサトシさん(34歳、仮名)は、この日のことをこう振り返る。「リクルートスーツを着た、たぶん、若い女性でした。自分も自殺していたら、こんなふうにさらし者になるんだと思ったら、(死ぬのは)やめようと……。今はただ生きることを頑張る毎日です」。
貯金通帳の残高は「0円」
サトシさんとは自宅近くのファミリーレストランで会った。見せてくれた貯金通帳の残高は「0円」。今年に入ってからは日々の食費にも事欠く状態で、「主食」はモヤシと賞味期限切れ間近で値引きされた豆腐だという。スーパーの試食品コーナーを回ったり、100円ショップでそろえた釣り具で、近くの海で魚をとったりすることもある。ここ数日は、自販機の下に落ちていた100円で買ったパスタを塩ゆでにして腹を満たしている。
水道代を節約するために、用を足すときは最寄り駅に隣接した商業施設内のトイレを、シャワーは派遣先の介護施設に設置された浴室を使う。そこまでして切り詰めても、現在、アパートの家賃は3カ月滞納しており、立ち退きを迫られている状態である。
「ガスはしょっちゅう止められます。水道は最後まで止められないんですが、以前、止められたときは、警察が(安否確認のために)自宅までやってきました」
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