52歳大学非常勤講師「年収200万円」の不条理 正規の「専任教員」との給与格差は5倍だ

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格差は給与だけにとどまらない。専任教員には研究費が支給され、研究室が利用できるほか、大学側が費用を一部負担する公務員共済や私学共済などに加入することもできる。これに対して非常勤講師にはそうしたメリットは原則、ゼロ。社会保障も、全額自分で掛け金を払う国民年金や国民健康保険に入るしかない。

私は、非常勤講師と専任教員の間にある格差すべてを否定するつもりはない。大学によって、専任教員には大学運営や入試関連の業務があり、仕事内容は非常勤講師のそれと同じではない。しかし、給与だけで5倍の格差は大きすぎる。10倍にいたっては論評する気さえ失せる。

いわゆる高学歴ワーキングプアが増えた背景には、国の財政事情や大学側の都合がある。「問題のすべてを個人の努力や責任のせいにするのは、間違いだと思うんです」とススムさんは言う。

ここ数年は、奨学金の返済も滞りがちだ。日本学生支援機構の奨学金は、返済期限が過ぎると、未払い元金に毎年5%の延滞金が発生する。支払いが遅れれば遅れるだけ雪だるま式に増えていく仕組みで、ススムさんは毎年約20万円を返済する計画だが、最近は滞納続き。返済したカネはまず延滞金に充てられるため、「返しても、返しても、元金が減らない」。いわゆる「延滞金地獄」に陥っている。

同機構が債権回収を依頼している民間業者からは頻繁に督促の電話がかかってくるという。ある知り合いからは、地方にある実家まで業者が押し掛けてきたと聞いた。ススムさんは「(授業の)コマ数が減ったらと考えると、毎年気が気ではありません。払う意思はあるんです。でも、ないものはない」と言い、取り立て一辺倒の同機構を批判。「猶予期間の延長や延滞金制度の見直しなど、もう少し返しやすい仕組みにしてほしい」と訴える。

兄弟たちの視線は冷たかった

かつては結婚を考えた女性もいた。40代の頃には、ネットの婚活サイトに登録してパーティに参加したこともあった。しかし、非正規雇用で、奨学金という借金の返済に追われる身では、「いまひとつ強く踏み出すことができなかった」という。

「貧困」は家族との絆をも脅かした。ススムさんがいつまでも非常勤講師で、実家暮らしを続けることに対し、兄弟たちの視線は冷たかったという。数年前に父親がガンで亡くなったときに「お前の健康管理がなっていなかったからだ」と理不尽に責められた挙句、実家を出ていくよう求められ、最後は遺産である実家の相続をめぐる争いにまで発展した。以来、兄弟とは没交渉。

ススムさんに言わせると、生活費の一部は負担しているし、母親の体調が悪いときには面倒もみている。それでも、兄弟たちには自分が親の年金を食い物にしているように見えたのか。「いずれにしても私に金銭的な余裕があれば、ここまで関係はこじれなかったと思います」。

母親はかろうじて味方をしてくれるが、兄弟たちが里帰りする正月は、ススムさんが研究活動のためなどと称して入れ違いで家を出て互いに顔を合わせないようにすることが、暗黙の了解事となってしまった。

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