「お父さん、もう長くないと思うんだ」
間もなく夏休みが始まろうというころ。当時、ユウキさん(18歳、仮名)は高校2年生だった。遅刻しそうになったある朝、父親が車で学校まで送ってくれるという。ホッとしたのもつかの間、車内で聞かされたのは、衝撃的な告白だった。
「お兄ちゃんにだけは言っておくけど、お父さん、もう長くないと思うんだ」
確かにここ数カ月、夜遅く帰宅した父親が毎日のように、トイレで嘔吐していたのを知っていた。顔色も悪く、調子が悪そうだなと心配はしていたのだ。
「働かなきゃいけないから病院には行かない。もし、病気だとわかって入院することになったら、稼ぎ手がいなくなる」
そう言い張る父親を説得。数日後、ユウキさんが学校を休み、病院に付き添った。果たして父親は末期のすい臓がんだった。
「初めは医者が話している言葉の意味が頭に入ってきませんでした」。それくらいショックだったという。
ユウキさんは、父親が日本人、母親がタイ人。いわゆる日タイダブルだ。両親からは、母親が観光で日本を訪れていたときに父親と出会い、結婚したと聞いた。幼いころ、家族でタイに里帰りしたこともあるという。
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