なぜ人は、絵を描かずにいられないのか?

美術史からこぼれ落ちた人たちの「名画」

自家製の絵の具で、ダンボールに描く農夫

展覧会のタイトルにある「素朴派」とは、ルソーのように正規の美術教育を受けていない人で、ほかに職業を持っていたり、放浪したりしながら制作した人たちのこと。

貧しい農夫だったピエトロ・ギッザルディは、無理解な家族に絵を焼き捨てられつつも、夜中にこっそり制作していた。果汁、ワイン、血などで作った手製の絵具で段ボールに人物像を描いた。苗木商だったアンドレ・ボーシャン、日本の放浪画家には山下清がいる。英国の元首相チャーチルも晩年まで絵筆を離さなかった。

ビル・トレイラー『人と犬のいる家』
制作年不詳 世田谷美術館蔵
屋根の上を影絵のような男が歩いている。ホームレスのトレイラーにとって家とはどんなものだったのか

高齢になってから始めた人もいる。アメリカで一躍有名になった農家の主婦、グランマ・モーゼスは、リウマチで刺しゅうができなくなった75歳から本格的に絵に取り組んだ。船乗りを引退して古道具屋をしていたアルフレッド・ウォリスは、妻を亡くした寂しさから、70歳で絵筆をとった。85歳で絵の楽しさに目覚めたのが、ビル・トレイラーだ。

アメリカ・アラバマ州のトレイラー農場に奴隷の子として生まれた彼は、年をとって働けなくなると生活保護を受け、夜は倉庫で眠り、昼はすることもなく路上で過ごしていた。そしてあるとき突然、鉛筆で絵を描いた。

「すると面白くなって、拾ったような紙に鉛筆と定規で独特の絵を描いて、道端で安い値段で売るようになりました。それを見た画家が援助し、展覧会も開かれました。ホームレスの悲惨さを感じさせない、ユーモアのある楽しい絵です」と遠藤さん。95歳で亡くなるまでに1500枚を描いたという。

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