「人口32人」の集落に移住したドイツ人の気概 色鮮やかな古民家が消滅寸前の集落を救った

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和と洋が融合した古民家内部でくつろぐベンクス夫妻(写真:studio HATOYA)

もう、村を閉じるしかないのか――。1959年には39世帯237人が暮らしていたが、1990年代入り9世帯まで減少した新潟県十日町市竹所(たけどころ)集落。一時は、消滅が危惧された豪雪地帯の集落が、1人のドイツ人建設デザイナーの手によって息を吹き返しつつある。

ベルリン生まれのカール・ベンクス氏(75)が、消滅の危機にあるギリギリのタイミングで竹所に移住したのは1994年のこと。以来、同氏が村で手掛けたピンクやイエローの再生古民家は、里山に色鮮やかな景観をもたらしているだけでなく、この村に移住者を呼び込む役割も果たしている。

18年ぶりとなる赤ちゃんも誕生

元旅館を再生した「カールベンクス・ハウス」(筆者撮影)

現在、竹所には15世帯32名が暮らす。決して多いとは言えないが、自然豊かな場所で子育てを希望する移住者も増え、数年前には、村では18年ぶりとなる赤ちゃんも誕生。昨年からは、20~30代の若者が移住し、地元レストランや旅館で働き始めた。今では、移住者がもともとの住民の数を上回っている。

ベンクス氏の事務所がある「まつだいカールベンクス・ハウス」は、歴史ある旅館「松栄館」を再生させたもので、赤褐色のべんがら色の壁と黒茶色の太い柱、梁とのコントラストが美しい建物だ。1階はレストランになっており、一般の観光客も入ることができる。

カフェとしても使われている「イエローハウス」(撮影:大出恭子)

ここを拠点に車で10分ほど山道を登ると、木々の間にピンク、イエロー、グリーンなどカラフルな外観の再生古民家が見えてくる。現在、竹所にある12軒の家屋のうち8軒はベンクス氏が手掛けたもの。昔ながらの日本の山里でありながら、どこか欧州の田舎を思わせる風景は竹所独特の景観だ。

確かに風光明媚ではあるが、竹所は12月から4月まで深い雪に覆われる日本の有数の豪雪地帯。その積雪量は2メートルにも上る。ベルリン出身とはいえ、ベンクス氏は雪国の生活に不便を感じないのだろうか。そう尋ねると、「竹所は四季の変化が濃い、世界一美しい村。都会の暮らしのほうが満員電車や狭い住宅で不便でしょう?」と返された。

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