よくあるリサーチなら、サンプル数を増やすことによって客観性を確認することになる。自分の思いが、自分だけのものではなく、他人もそう思っているのだということを、多数決のような方法で確かめるわけだ。
『はじめての哲学史』によれば、この定番の手法は直観補強型思考に該当するが、あまりうまいやり方ではないとされる。哲学の伝統の中で採用されたのは、むしろこれとは異なる思考の方法、直観検証型思考だ。これが「本質直観」である。
何よりも注目すべきは「気づいてしまった」こと
直観検証型思考や本質直観とは何か。それは、何かを気づいてしまった「自分」に注目することから始める方法だといえる。
先の例であれば、機能性飲料に需要があるらしいと考えてしまった自分に注目し、どうしてそう考えてしまったのかを問う。その中で、自分の確信が怪しいと気づくことや、逆に、自分の確信を支える重要な根拠を見つけることができるようになる。
この本質直観の最大の魅力は、疑いようのない絶対的な確信から出発できる点にある。私の思いが客観的に正しいかどうかはわからないが、私がそう思ってしまったということ自体は、私の確信なのだから疑いようがない。
たとえば、やかんを触って熱いと感じたとき、その感覚が間違っていたといえるだろうか。熱いと感じたそのときの確信は、少なくとも私にとっては疑いようがない確信だ。
逆にいえば、旧来の直観補強型思考の問題は、どんなに外部の情報を集めても、それ自体が正しいかどうかわからないという点にある。その情報は誤報かもしれない。この人は嘘をついているかもしれない。そして、『オリエント急行殺人事件』よろしく、みんなで僕を騙そうとしているのかもしれない。
以前にも一度、ソーシャルメディア上の書き込みに気づきを得たというマーケターの話をした。
嘘か本当かわからない書き込みの真偽を調べるよりも、その書き込みに注目してしまった自分に注目し、その理由を探り直すのだ、と。
この方法ならば、書き込みの真偽や他人の本心といった捉えようのないものではなく、自分の確信という、世界でいちばんはっきりしたものを議論の出発点に据えることができる。
今回は、もう少し話を進めて、本質直観に基づくマーケティング・リサーチのあり方を考えてみよう。いちばん応用しやすいのは、顧客へのインタビューであると思う。旧来の手法はもとより、本質直観的なアプローチでも、顧客に聞くこと自体はとても大事だからだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら