教養とはマネジメント能力であり、勇気だ

山折哲雄×鷲田清一(その4)

右肩上がり世代の異常性

鷲田:今はとにかく30代以上から高齢者まで、全部右肩上がりしか知らない世代でしょう。戦後、いったんガクンと落ちましたが、すぐまた復興特需、朝鮮戦争・ベトナム戦争特需があって、いわゆる高度成長に向かいましたから。でも、日本や世界の歴史を見て、急激な右肩上がりが続いたのは、20世紀だけですよ。

鷲田清一(わしだ・きよかず)
哲学者

1949年生まれ。京都大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科哲学専攻博士課程修了。関西大学、大阪大学で教授職を務め、現在は大谷大学教授。前大阪大学総長、大阪大学名誉教授。専攻は哲学・倫理学。『京都の平熱――哲学者の都市案内』『<ひと>の現象学』など著書多数

山折:そうかな、世界の経済を見ると。

鷲田:江戸時代は200年、300年の間、物価はほとんど変わっていません。

山折:あー、そうか。

鷲田:いわゆる定常社会です。20世紀に近代産業が生まれてから、エネルギー消費から何から何までビューンと1世紀で上がったわけです。つまり、右肩上がりというのは、人類史において非常に特殊なケースだということです。

私が思うに、高度成長期を生きて、それしか経験していない人々は、子孫を心配しない人たちだということです。

山折:なるほど。

鷲田:明日、明後日と、だんだんよくなっていくので、何か事が起きても、次の世代は技術も発達しているし、今、抱えている問題も全部解決するだろうと考えるわけです。だから、右肩上がりの世代は、今、一生懸命頑張っておいたら、次の時代はまた次の時代の人間がちゃんと解決してくれるという、オプティミ二ズムで生きていけます。

ところが定常時代の人たちは、戦争や大災害が起きたら、自分たちの子孫は必ず飢えるという意識があるわけです。今、生きているのもギリギリですから。だから、今のうちに、将来世代、子孫のために蓄えを残そうとします。

それから儲けの世界について言うと、先代の中村宗哲(なかむらそうてつ)さんは「儲けられるときに儲けすぎたらあかん。ビジネスチャンスがあっても、あえてそこで儲けすぎない。それが家が長く続く秘訣」だとおしゃっていました。

山折:近江商人の「三方よし」がそれですね。

鷲田:定常社会でずっと生きていると、何か起こったら飢えるという心配があるわけです。ところが、今の政治経済の中枢、リーダーになっている人というのは、基本的に子孫の心配をしない時代に生きてきたから、あれだけ借金が膨らんでも……。

山折:成長戦略を連呼している。

鷲田:ものすごく荒っぽい議論ではありますけど。

山折:いや、とても重要な指摘。そのとおりです。

鷲田:今の30代以下の子は右肩上がりを知らないし、感覚的に理解できない。だから、若い世代のほうがまともだと思いますよ。

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