教養とはマネジメント能力であり、勇気だ

山折哲雄×鷲田清一(その4)

勇気のない教養は役に立たない

山折:マネジメントという意味では、経営者、特に中小企業の社長というのは本当に苦労しています。

山折哲雄(やまおり・てつお)
こころを育む総合フォーラム座長

1931年、サンフランシスコ生まれ。岩手県花巻市で育つ。宗教学専攻。東北大学文学部印度哲学科卒業。駒沢大学助教授、東北大学助教授、国立歴史民俗博物館教授、国際日本文化研究センター教授、同所長などを歴任。『こころの作法』『いま、こころを育むとは』など著書多数

鷲田:経営者は背筋が震え上がるような経験をして、修羅場を乗り越えてきていますからね。誰も代わりに決断してくれませんし。その意味で、経営者には、本当の意味での教養がないといけない。

それに、国の経営者という意味では、政治家にも教養が必要になります。「国家百年の計」という言葉がありますが、哲学を持ち上げるわけではないですが、これからの政治家というのは、少なくとも百年、できれば数百年を射程に入れた歴史的教養や哲学がなかったらやっていけないはずですよ。

最近、政治家と経済界のリーダーを見ていて正気なのかと思うのは、この期に及んで、経済成長という言葉を使うことです。もうこれから2040年代までに、人口がどれだけ減るかはわかっているわけです。社会の縮小をやるしかないのです。そして、社会を縮小するとなると、取捨選択をしなければなりません。

経済の成長率が落ちたとしても、これは日本としてもっと拡張するとか、これはあきらめるとか、あるいは減らすとか、要するに、みんなに嫌なこと、我慢を強いることを決断する責任があるはずです。そのときに何をやめるか、何を守るか、何にもっと力を入れるかを決めないといけない。これを私は、「価値の遠近法」と言っています。

何か物事に直面したときに、「絶対に手放してはいけないもの」「あったらいいけどなくてもいいもの」「端的になくてもいいもの」「絶対あってはいけないもの」の4つくらいに、さっとカテゴライズできるのが本当の教養だと思います。

今後の政治家は、価値の遠近法、つまりは哲学をしっかり持って、それを背景に、人々に「つらいけれど我慢しよう」と呼びかけ、説得しなければいけないわけです。

山折:これからの日本の子どもの世代、次の世代のためを考えれば、老人世代、高年齢世代にかかっているコストを削る以外にはないですよ。だから医療、年金、介護の予算を削っていかざるをえない。政治家もそれはわかっていると思います。わかっているけれども、決断できない。だから教養の核にあるものは勇気かもしれない。

鷲田:ああ、そう考えたらね。

山折:勇気のない教養というのは、役に立たない教養。

鷲田:結構、古代ギリシャの時代に戻っていくかもしれない。

山折:今の日本には、勇気をもった政治家がひとりもいない。みんな調整家になりたがる。学問の世界でも、勇気の発動をみる機会がまことに少なくなっている……。

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