「父母と娘のトリプル介護」をする作家の人生

「5000通の葉書」が命を繋いだ

救いの手を差しのべてくれたのは、かのこさんを担当するヘルパーの青木智子さん(51)だ。青木さんは老人介護施設で働いた経験から、こんなアドバイスをした。

「とりあえず何でも、“あー、そうなん、大変やね”と言っとったらええねん。おじいちゃんに来るな言われたら、当分行かんかったらいいやん。そのうち怒っていたことも忘れると思うよ。忘れるのが認知症やから」

青木さんは、脇谷さんが頑張って手をかけすぎることが気になっていたそうだ。

かのこさんは胃ろうで栄養剤や水分をとっている。以前、鼻から胃までチューブを入れていたときに比べると、格段に楽になった(撮影:齋藤周造)

「お母さんはかのちゃんを一生懸命育ててきたから、自分の親にも同じようにせなあかんと思ってたみたいです。だから、私の話も初めは“エー、そんな軽い調子で大丈夫なん?”と思ったみたいですが、 そのうち“そういや、お医者さんにもそう言われたな”と自分で気づいて、学んでいかれたんですよ」

結局、クーラー騒動は、いつも冷静に見守ってくれていた脇谷さんの夫が、窓につけるクーラーを設置することで、一件落着した。

昨年10月、脇谷さんは父を97歳で看取った。8年にわたるトリプル介護の日々を『晴れときどき認知症』にまとめ今年7月に出版した。

今はダブル介護だが、昼間はヘルパーや訪問看護師などが次々とやって来る。合間にかのこさんの痰の吸引をしたり、着替えをさせたり。

目の回るような忙しさなのに、風呂入れを担当するヘルパーが脱水症状にならないようにと、冷たい飲み物を用意する気遣いを忘れない。

脇谷さんは一見、強そうに見えるが、それは強くならざるをえなかっただけで、本来はとても繊細で情が深い人なのだろう。そうでなかったら苦労を承知で、両親の介護までできるものではない。

息子は頼りになる相談相手

’94年。2歳上の兄・正嗣さんは、いつもかのこさんを可愛がってくれた

よき話し相手だった息子の正嗣さんは14年前に渡米。大学院を卒業して障がい児の特別支援教育に携わっている。

渡米して間もないころ、帰国しようかと悩んで母に相談したら、こう諭された。

「いつでも帰っておいで。ただ、負けて帰ってきたらあかん。とにかく、今日1日を生きなさい。今日1日だけ生きるんだと思えば、明日も来週も来月も生きられるから」

アメリカの障がい者支援は日本よりさまざまな面で進んでいる。今では、正嗣さんは頼りになる相談相手だ。

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