「父母と娘のトリプル介護」をする作家の人生 「5000通の葉書」が命を繋いだ
「それが台本を読んだら、どのセリフも涙をこらえないとダメなくらい、すっごい共感できたんです。脇谷さんの考え方もまさにそのとおりやと思えたし。“全部が学びや”とか、“闇のなかには光と影があってどちらを感じるかは本人次第”とか。私自身、息子が生まれてからそういう感覚がすごくあったので、撮影はめっちゃ楽しかったです」
紗理奈さんが演じる主人公は苦労するそぶりを見せず、日々を懸命に生きている。それだけに、疲れて本音をポロリと吐露するシーンが、より強く印象に残った。
演技のヒントになったのは脇谷さんとの会話。「気がついたら5000枚書いていたの」と楽しそうに話す脇谷さんを見て、大変さを前面に出すのはやめようと決めたそうだ。
「だって、脇谷さんほどの苦労じゃなくても、私も含めて、それぞれ、人生、何かしら抱えているじゃないですか。普段は心のなかの見えないところにしまって、みんな元気に生きているんだろうなと思ったんです」
この演技が高く評価され、紗理奈さんはマドリード国際映画祭で最優秀外国映画主演女優賞を獲得した。
映画は脇谷さんが暮らす武庫川団地で昨年9月に撮影された。家のなかのシーンは、脇谷さんの自宅の3軒隣の空き部屋が使われた。
脇谷さんの「ぶっちゃけトーク」に共感
協力してくれた地元の人たちに見てほしい。そんな脇谷さんの願いを叶えてくれたのは、脇谷さんが’05年からパーソナリティーを務める地元のコミュニティー放送局のさくらFMだ。
今年7月にさくらFMが主催して上映会を開くと大盛況だった。脇谷さんの番組『風のような手紙』を担当する入江吉則さん(37)は、そのときの様子を教えてくれた。
「ビックリしたのは、4回上映したすべての回で、映画が終わっても誰も席を立たないんです。場内が明るくなったら、ワアーッと自然と拍手が起こる。そんな映画、なかなかないですよね」
上映会には脇谷さんの知り合いだけでなく、リスナーもたくさん来てくれた。
実は脇谷さん、両親を西宮市に迎えてすぐ、さらなる試練に見舞われていた。90歳の父が認知症を発症。81歳の母は脳梗塞で倒れ、かのこさんの世話と「トリプル介護」の生活が始まったのだ。