「父母と娘のトリプル介護」をする作家の人生 「5000通の葉書」が命を繋いだ

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理学療法士の吉田聖代さん(41)との出会いは、脇谷さんだけでなく、かのこさんにも大きな変化をもたらした。吉田さんのリハビリのおかげで、かのこさんが26歳のとき意思の疎通ができるようになったのだ。

だが、吉田さんに聞くと、担当し始めた当初は脇谷さんとかなりぶつかったそうだ。

「かのちゃんは重度のなかの重度やったんで、お母さんは“そんなん無理無理”という感じで。でも、私は重度の障がいがあっても感情のない人はいないと思っていたので、手にボールを握らせるところからスタートして、7年かかりました。自分の意思が伝えられるようになって、かのちゃんは円形脱毛症が治ったんですよ

理学療法士の吉田聖代さんが自宅に来てリハビリをしてくれる。かのこさんは楽しそう(撮影:齋藤周造)

かのこさんに質問をし手をギュッと握ったら、ハイという返事。イイエのときは握らない。これまで何がいちばん苦しかったかと聞いたら、けいれん発作や肺炎で死にかけたことではなく、自分の意思を伝えられなかったことだと答えた。こうした体験を経て、脇谷さんは周りの人の助けを借りる大切さを痛感した

「なんでもそうですが、ひとりだけで抱え込まずにたくさん仲間をつくることが大切なんです。かのこは週3回、施設に通っていますが、今日は行かない日なのでヘルパーさんが2人来てお風呂に入れてくれます。いつもヘルパーさんとは、お友達みたいに何でも話しているんですよ。“お母さんがいつ死んでも、かのこちゃんが誰にでも世話してもらえるようにしておくのが愛情ですよ”と言われて、そのとおりやねと思いました」

父母娘、トリプル介護が始まった

’08年に両親が西宮に来てトリプル介護が始まると、戸惑うことばかりだった。

認知症の父は真夏なのに「寒い、寒い」と言って洋服を着こんでコタツまで引っ張り出す。脇谷さんは「こんなに汗をかいているってことは暑いんだよ」と説得しようとしたが逆効果。室温が33℃を超えても、父は頑としてクーラーをつけない。脳梗塞を患い不整脈もある母は、ついに熱中症で倒れてしまう。

脇谷さんが衰弱した母を自分の家に連れていくと、父は娘を「女房泥棒」だと思って激高し、殴りかかってきた。

ことの次第を医師に話すと「お父さんはあなたに怒っているのです。あなたの介護が間違っていたからですよ」と指摘され、脇谷さんは自分の頑張りを全否定されたような気がした。

「3度のご飯を用意して、掃除をして、必死になってやってるのに、私のどこが悪いんよと腹が立ちましたよ」

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