主な中所得国の多くで景気後退が深刻化し、おしなべて資産価値が急落している昨今、この影響が新興国市場に波及することは避けられないのだろうか。新興国の生産性は2008年の金融危機以降も順調に向上してきた。ところが、中国の成長に陰りが見えてきたうえ、先進国の超金融緩和政策が終わる可能性が出てきていることで生産性低下の懸念も浮上している。
中国の成長力低迷などが新興国市場に与えた影響の大きさを考えると、これから先、何がさらなる大きなショックを与えるかわからないし、それに新興国市場が適応できるかも未知数だ。
ブラジル、インド、南アフリカおよびインドネシアのような、巨額の継続的経常赤字に対するファイナンスが必要な国々に対し、市場は特に厳しい。幸い、柔軟な為替レート、十分な外貨準備高に通貨体制の改善や、外貨借り入れからの脱却を進めれば、いくらか身を守る手段はあるだろう。
しかし、長年マヒ状態の政治、そして先延ばしされた構造改革が脆弱性の原因となっている。むろん、アルゼンチンやベネズエラのような国は、経済成長の追い風となっている物価安と低金利国際金融にかなり依存している。この好調さがほかの多くの国でも問題点を見えにくくしている。
昨今、資産価格の不安定さは景気の失速よりも頻繁に報道されているが、後者のほうがより深刻だ。途上国の株式、債券市場は長らく人気の割に比較的非流動的なままである。そのため、少量のポートフォリオの移動でさえ価格が大きくぶれる。
最近まで、国際投資家は新興国市場でのポートフォリオ拡大は簡単なことだと思っていた。先進国が事実上低迷しているのに対して、途上国は堅調に成長しているからだ。将来的に経済成長だけでなく安定した政治にも支えられて成長するとみられる、中級クラスに注目が集まり始めた。ロシアやナイジェリアのような政治腐敗が取りざたされる国でさえ、中所得層の急増と個人需要の伸びを示しているのである。
しかし、格差が縮まったことで投資家にとって新興国市場は若干難しいものとなり、これがこうした国々の資産価値に多大な影響を及ぼすようになっている。
過剰に低くなってしまった金利を正常化しようとする動きがあっても、パニックが起きることはないだろう。債券価格の再下落も、1980年代の中南米債務危機や90年代後半のアジア通貨危機を繰り返す前兆にはならない。実際、コロンビアなどの新興国で発行される国債は米国債に対して利率が低い。こうした国の財務担当相は、空前の低金利を喜ぶ一方でそれが長続きしないだろうことも知っておかねばならない。
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