マルクス兄弟の有名な映画で、チコ・マルクスは競馬に賭けようとする人に言う。「君が2と言えば、僕は4と言おう。君が8と言えば、僕は16と言おう。数字ならたくさん持っているのだ」。
安倍晋三首相もしかりだ。「第3の矢」の発表に多くの数字を持ち出したが、その達成方法はほとんど何も示されなかった。経済顧問の一人、浜田宏一教授でさえ、この6月5日の首相発表に60~70%という評価を下した。
参議院選挙が終わったので首相がもっと大胆な措置を取ると見る向きもあるが、疑わしい。
まず、重要な予算問題の一つ、年金受給開始年齢の引き上げについて、参議院選挙の3日後に首相が下した決断は、一切の決定を無期延期することだった。同様に、環太平洋経済連携協定(TPP)協議で日本が提示する関税撤廃品目比率は70~80%になるとの見通しが8月半ばに示された。この比率は、重要5品目を除くすべての関税を撤廃した場合の93.5%を大きく下回り、TPPの目標である98%の関税撤廃からはかけ離れている。
大事な有権者層の気持ちが離れるという首相の懸念以外に、もっと根本的な問題がある。「第3の矢」の提案の大半は経済成長とほとんど関係なく、むしろ大企業の単なる「願い事リスト」であることだ。
たとえば、経団連は法人税の大幅削減を望んでおり、これが投資増大につながり、空洞化を止めると主張している。現実には、2013年1~3月期の企業のキャッシュフローは設備投資を上回り、その差は国内総生産(GDP)の5.2%に相当する。企業はキャッシュフローを手元にとどめておくか海外投資に使っている。設備投資減税は景気にいいかもしれないが、どうして国民が消費税引き上げを求められているときに国民のおカネを法人減税に回すのか。
財界は首相に対して、推定400万~500万人の余剰正社員(幹部を除く全正社員の12~14%に相当)をリストラしにくくしている判例を無視できるようにすることも求めている。実現すれば、日本の社会契約は大きく破綻する。なぜなら中途採用では、それまでと同様の仕事に就くことにはさまざまな障害があるからだ。多くの有権者の心が離れ、失業率が上昇するだろう。
疑いなく日本は労働市場の柔軟性を高める必要がある。しかし、これは首相が協議することではない。新しい職業のために国民を再訓練し、雇用者と労働者のミスマッチ解消につなげる政策にGDPの2~4%を支出している国があるが、日本でのそれは0.3%を下回っており、米国を除くどの富裕国よりも低い水準だ。財政支出に圧力がかかる現状では、このことは変わりそうにない。
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