新興国市場の低迷への備えが不十分な先進国
憂慮すべき理由はいくらでもある。そもそも、自国通貨でさらに借り入れすることで金融危機を解消できると考えるのは愚かなことだ。今後も銀行は倒産し、貧困層はさらに苦しくなり、成長は行き詰まる。
あるいは、先進国が第2次世界大戦後にしたように、より厳しい資本規制を金融市場に課す国々もあろう。だが金融的抑圧は悪影響がないとはいえず、結果、長期成長に打撃を与えることがあるかもしれない。
もし新興国市場の景気悪化が今、あるいは数年後にさらにひどくなるとして、世界にその備えはあるか。ここにも、深刻な懸念材料がある。
世界の銀行システムはいまだに脆弱で、特に欧州は完成度が低い。欧州危機を体験した国際通貨基金(IMF)が新興国市場の危機にどうアプローチするかはかなり不透明である。先般の欧州危機では、最重要課題だったユーロ地域内の構造改革を進めるため、そして短期的経済保護のために政策のバランスを取らなければならなかった。
それはまた別の話としておくが、欧州危機での体験は、IMFが欧州各国(ここでもギリシャなどは新興国と実際同じだが)にダブルスタンダードを設けているのではないか、という厳しい疑問を投げかけた。
できればこうした事態は避けたい。なぜなら、新興国市場の長期的な見通しが先進国のそれよりましとはいえない状態になった今でも、一部の投資家には新興国市場から手を引くつもりはないからだ。
ユーロ圏は最悪な状況を脱した、という現在の見方も楽観的すぎる。イタリアやフランスなどの国における構造改革はほとんど実施されていないといっていい。欧州の銀行同盟をどうやって運営していくのか、といった基本的な問題もいまだに残っている。スペインの巨額なリスクプレミアムはほぼ消滅したが、債務問題はまだ解決していない。
一方、大西洋を渡った世界政治の中枢である米ワシントンは、債務制限が限界に達しつつあるという苦境に立たされている。今は先進国の資本市場へ撤退していても、すぐにまたそこから撤退することになるだろう。
新興国市場の後退が今後さらに加速する可能性は否めない。その時に対して世界が万全に備えることを望むばかりである。
(撮影:ロイター/アフロ =週刊東洋経済2013年9月21日号)
(c)Project Syndicate
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