筆者は何回も、こうした転職希望者が増える転換期に遭遇しました。たとえば、金融不況で求人倍率の低迷が長く続いた1990年代。会社が社員に対して強気で昇給もストップ。転職したくても求人なんてない時代。会社は社員に対して「衛生要因で不満が溜まっても辞めない」と決めつけていました。そこでオフォスなど職場環境を改悪するようなことが平気で行われていました。待遇は据え置きか、実質的な賃下げも行われ、本社オフォスも売却。交通事情の悪い、手狭なビルへの移転も当たり前のように行われました(業績等の関係で致し方ない事情であることもありましたが)。確かに改悪されても退職率は上がらない状況。衛生要因による不満が退職に大きな要因にならない状況が続きました。
求人倍率が大幅に改善すると…
ところが2000年を超えた時期から求人倍率が大幅に改善、上昇に転じます。景気が回復して企業が採用数を増やし始めたのです。すると数年後に人材流出が続く企業が出てきました。転職希望者が増える転換期になっていることに気づくのが遅かったのです。この気づくタイミングの遅さが、景気回復時の体制準備を遅らせ、競合他社の後塵を拝する会社も生まれました。ただ、やがて、各社横並びで衛生要因の改善が行われるようになります。
たとえば、
・魅力的なオフォスへの移転
・社員が働きやすい経営方針の提示
・報酬面の改定
など。こうしたリテンション(人材の確保施策)が行われることは、働く社員にとって望ましいことです。しかしそれがどんどん加速していくと困ったことが起きます。超採用難の中、不満があって転職を考えかけた人が辞めない決断に転換するのです。現状の職場での不満が会社側の施策によってある程度解消されるからです。
厳しい指導をしていた上司も人事部の指導で驚異的なほどにマイルドで優しくなる。さらに働き方改革の流れにも乗り、残業は大幅に減少。ボーナスも大幅にアップ。オフィスには社員の働き方に気配りが細やかにされるようになることでしょう。そうして、転職を考える人が激減。
《転職市場から転職予備軍がいなくなる》
状態になるのです。
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