雇用が回復しても賃金が上がらない理由 今後の経済政策で重要なことは何か
1997年から下がり続けた名目賃金
日本経済は現在、深刻な人手不足に直面しているかのように言われている。確かに、今年に入って、完全失業率はバブルが崩壊して以来久しく見ることが出来なかった2%台にまで低下した。有効求人倍率にいたっては、バブル期のそれを飛び越えて、高度成長の余韻が残っていた1970年代初頭の水準にまで改善した。
そうした中で、パートやアルバイトなどの非正規雇用の賃金は、明確に上昇し始めている。しかしながら、正規雇用も含めた就業者全体の賃金上昇トレンドは、未だにきわめて弱々しい。
日本の就業者の平均的な名目賃金すなわち額面上の賃金は、バブル崩壊後もしばらくは上昇し続けていたが、消費税増税を発端とする1997年からの経済危機を契機に下落し続けるようになった。さらに2009年頃には、リーマン・ショックに始まる世界経済危機の影響を受けて急落した。日本の名目賃金がようやくわずかながら上向きのトレンドに転じたのは、アベノミクスが始まった2013年以降のことにすぎない。
こうした低い名目賃金上昇率は、日本経済の物価上昇率が未だに低いことの原因ともなっている。政府・日銀は、第2次安倍政権成立直後の2013年1月に、2%のインフレ目標を掲げた。しかしその目標は、4年半以上経過した現在も実現されていない。それは何よりも、名目賃金の上昇率が未だに低いからである。
物価が継続的に上昇するためには、その物価以上に賃金が上昇しなければならない。というのは、物価が上がったにもかかわらず賃金が上昇しないということになれば、賃金上昇から物価上昇を差し引いた実質賃金は下落することになり、人々は継続的に貧しくなってしまうからである。