雇用が回復しても賃金が上がらない理由

今後の経済政策で重要なことは何か

仮に現在の日本の非正規雇用比率が40%ではなく20%であったとすれば、日本の失業率は必ず現状よりも高くなっていたはずである。というのは、企業はその場合、正規雇用の高賃金に見合うだけの限界生産性を持つ限られた労働者しか雇用しないはずだからである。

これをマクロ経済学の枠組みから言えば、「労働市場における構造的失業率が低下した」ということになる。構造的失業率は一般に、政府や労働組合などの労働市場の規制拡大によって上昇する。しかし日本では、労働市場の規制緩和などによって、企業は非正規の低賃金労働をより「柔軟に」利用できるようになった。そう考えると、日本の構造的失業率は、従来の想定とは異なり、上昇するよりも低下した可能性の方が高いのである。

拡張的マクロ政策からの「出口」を焦ってはならない

つまり、失業率や有効求人倍率に関する現在の数字は、旧来のそれと比較して、低賃金の非正規雇用が拡大した分だけ「かさ上げ」されたものと考えなくてはならない。その点を差し引くと、実際の雇用状況は、実は数字ほどには改善されてはいないのである。未だに賃金の引き上げが十分に進展していないのは、おそらくそのためである。

確かに、非正規雇用では賃金上昇が生じ始めたが、それは「賃金が正規よりも大幅に安い」からにすぎない。本当に人手不足なら、企業は非正規のみならず正規においても、雇用の確保や流出阻止のために賃金を引き上げ始めるはずである。日本経済は、その状況に至ってはじめて、本当の意味での完全雇用に到達したといえる。

このことは、今後のマクロ経済政策運営に対しても、大きな示唆を持つ。雇用状況の改善が実態としては未だに不十分であるとすれば、政府と日銀はこれまでにも増して、「企業が市場の圧力によって賃上げを強いられる」ようなマクロ経済状況を一刻も早く実現すべく政策運営を行わなければならない。

最悪なのは、政府や日銀が、失業率や有効求人倍率の数字上の改善に惑わされて、財政拡張や金融緩和からの先走った「出口」を模索し始めることである。拡張的マクロ政策の転換は、賃金や物価の明確な上昇を確認してから行えばよく、それで問題は何もない。むしろ、マクロ緊縮政策への早まった転換こそが、日本に長期デフレ不況をもたらした本質的な原因であったことを忘れてはならないのである。

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