バルミューダ寺尾玄「もうNIKEしか履かねぇ」 熱き「家電の風雲児」が思わず宣言した理由

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――寺尾さんもシュードッグですね。強い想いを持っているという点で。

起業家にも、いろいろなタイプがいるでしょう。もしポジティブで気が強い性格の人を「シュードッグタイプ」というならば、私は完全にシュードッグタイプです。ほかに、シュードッグタイプだと思うのは、ヴァージンのリチャード・ブランソン、アップルのスティーブ・ジョブズ、パタゴニアのイヴォン・シュイナードです。どの会社も、ロックミュージシャンだった私が刺激を受け、バルミューダを創業するきっかけとなった会社です。

シュードッグが世界を変える

これらの会社に共通するのは、「これがやりたいんだ」という創業者の想いによって、あらゆる事業が動いているところです。

マーケティングのためじゃなく、自分がやりたいことから始まって、それが世の中に伝わり大きなインパクトを与える。それって、ロックバンドと同じだなと思いました。こんな曲を作ったら売れるよなとマーケティングをしてから曲を作るバンドはいない。そういった意味でも、私は、会社はバンド、製品は曲だと思っています。メンバーが集まって自然に音楽になる。それは作ろうと思って作れるものじゃなく、ほとばしり出るものなんです。それこそが真のクリエーティブだと思います。

モノづくりというのは、ものを作って終わりじゃない。私たちが本当に提供しているのは、製品ではなく、お客様がその製品を使って得た体験だと私たちは考えています。たとえば、最高においしいトーストが食べられることで少しでも人生が楽しくなるとか 。ナイキの場合は、走行性の向上や快適さという体験を人々に提供している。スニーカーやトースターはそのためのツールにすぎないんです。

結局のところ、モノづくりを通じて何がしたいのかというのが重要で、それこそが世界を変えていく。私の祖父の下駄箱の中を思い出しても、スニーカーなんて一足もなかった。それが今やどうですか。どんな年齢層でもスニーカーをもっている世の中になった。スニーカーを履いたら歩きやすさを実感し、歩きやすいから行動範囲も広がる。そこで知らなかった新しい人や店に出会って……というように、人々の行動や生活まで変わっていくんです。それは人生の豊かさにもつながります。

――その想いの強さを支えるものはなんでしょうか。

「人の役に立ちたい」という情熱です。そんなことを言うと、本当かな、と思うでしょう? 眉唾ものだと思うかもしれない。でも、人って、人を愛するようにできていると思う。だから人は誰でも、人から好かれたい、人から認められたいって思うんじゃないでしょうか。だとすれば、役に立つしかないんです。フィル・ナイトも、師匠のビル・バウワーマンや両親から認められたいという思いが強かったですよね。認められる唯一の方法が「役に立つこと」です。それは靴を扱おうが、電気製品を扱おうが、車を扱おうが同じこと。

「俺はやりたいことをやっているだけ」という起業家がいたとしても、結局は、社会のため人のために働いているんです。人の役に立つものでなければ、売れないんですから。それはサラリーマンも同じ。社会との接点は会社です。会社に自分の「売り物」を売っていかなければならない。自分の売り物で人の役に立ってこそ、この世界で生きがいを感じられるんだと思います。

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