ロックな負け犬が世界的企業ナイキを創った 巨大ブランドを生んだ「弱者たち」の復讐劇
大企業の代表とロックミュージシャン
ロックを中心とする音楽好きが高じた私は、これまで幾人かの著名なミュージシャンに関する本を翻訳する機会に恵まれてきた。そんな私が、今回縁あって、フィル・ナイトの自伝を翻訳することになった。
フィル・ナイトといえば、かのナイキの創始者だ。世界に名だたるシューズのブランドであり、アップルやマイクロソフトと並ぶ超大企業である。大企業の代表とロックミュージシャンではどうにも似つかわしくない。というよりも対極といっていい関係だ。
ロックは本質的に体制への反発と揶揄を根っこに持ち、かたや大企業は体制そのもの、両者は水と油である。さて、どのように訳していったらよいものか。どうもこれまでとは勝手が違いそうだ。
だが待てよ、考えてみれば、ロックミュージシャンはレコード会社に所属しつつも、自分で作品を作って売りさばく個人経営者みたいなものだ。両者には何か共通点があるのではないか。そんな思いを抱えながら、届いた原稿を読み進めていった。
冒頭からさすがに力強い。若き主人公フィルは雨の中を走りながら会社を立ち上げようと決意する。その強い意志には一点の曇りもない。そして単身日本へ出向いてオニツカタイガーとアメリカでの代理店契約を締結、その足でそのまま世界を回る。行く先々でその国その国についての教養を読者に披露していく。
何という行動力と知性だろう。まさに成功へとまっしぐらである。若きフィル・ナイトの発想と行動力に、凡人の私はどうでもいい嫉妬を覚えながら、この時点でミュージシャンとの共通点を探ることを断念した。せめて力強いロックのノリ?でこのサクセスストーリーを完成させようと思った。
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