53歳「絵の天才」と呼ばれる男がなお抱く渇望

やりたいことと適性の一致は幸運だった

冒頭で少し書いた、ライブドローイングは当初、客寄せで始めた。下描きしないで、連作6枚を描いた。やってみたら、皆に面白いと言われた。

確かにサクサクと絵を描いていく様子は見ていてとても面白い。寺田さんは、なぜ下描きなしで描けるようになったのだろうか?

下描きなしで描けるようになったのは…

なるべく一発で書くことを意識している(写真:筆者撮影)

「普段はシャーペンで下描きを描くし、消しゴムも使いますよ。ただ、昔からなるべく一発で書こうとか意識してる。それは中1か中2の頃に、手塚治虫先生が『マンガの描き方』 (光文社)で『落書きする時はなるべく消えないもので描きましょう。そうすれば上手くなります』という解説をしていて、なるほどと思って守ってます。だからいわば手塚先生のおかげですね (笑)。ものぐさなので、下描きを描くのも、消すのも嫌で、怠惰を突き詰めたのが、一発描きなんです」

フリーランスでイラストレーターを続けるのはやはり厳しい。あきらめて業界を去る人も少なくない。

そんな人から見たら、寺田さんは実にトントン拍子にイラストレーター、漫画家として出世してきたように見えるかもしれない。

「ある意味、3歳から人生に凹凸がないんですよ。俺がラッキーなのは、自分がやりたいこととスキルと適性が全部一致していたこと。小さい頃からラッキーだと自覚していて、なんて恵まれてるんだろうと思っていた。それ以外にも、学費出してもらって、家業を継がなくていいし、右手は動くし、これは全部ラッキーじゃないかって。いろいろな人に出会えたのもラッキー。今は健康なのがラッキー。そのつどラッキーを飛び石のようにして、生きてきました」

ただトントン拍子かと言われると少し違うという。周りから見たらトントン拍子に見えるかもしれないが、中学の頃のイメージでは今頃は『神のような画力』を持ってるはずだった。

一本線を引いたら、それを見たみんなが射精してしまうくらいの画力を目指していたが、現状そうはなっていない。

「そのあたりは傲慢なんです。もちろんそれは高望みだっていうのはわかってるんです。でも目標が高いところにあると、一生飽きないなって思うわけです。小さな目標は近くでいいけど(たとえば年収を上げるとか)、大きな目標はたどり着けないほど遠くに置いたほうがいいんですよ。モノづくりの最大の敵は達成感だったりします。達成感を得たら、絵を描くのを辞めちゃうんじゃないかという恐怖がある。だから、達成感はまったく必要なくて、共感なんかもいらないんです。

ただ自分がどれだけうまくなれるか、それによって人に喜んでもらえるか。まったくそれだけしかないんですよ」

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