「これは楽しいわ!! 仕事になる時代が来たらいいなあと思ったんだけど、当時はフルセットで400万円くらいしたんですよ。その頃は銀行に100万円前後くらいの額があるかないかだから当然買えない」
一日千秋の思いで値下がりするのを待ち、28歳のとき、50万円まで値下がりしたマッキントッシュ LC IIIを購入した。
当時の技術ですでに、プロの現場で使用できるなという手応えがあったが、いかんせん出版社などの受け手が対応していなかった。
初めてのデジタルデータ入稿は、『月刊アスキーコミック』(アスキー)から頼まれた、『バーチャファイター』(セガ)のイラストだった。当時のパソコンでは1枚絵では描けなかったので、分割して描き入稿した。
どんどんデジタル入稿が進み…
そこから出版業界はどんどんデジタル入稿の対応が進み、現在はアナログ原稿で入稿する人のほうが少数派になった。現在寺田さんは、ほぼiPad Proのみで作画をして入稿している。
ただ、寺田さんは「デジタルならではの作品」を作ることには興味がないという。
「俺がデジタルに求めたのは、スピード感とかなんですよね。デジタルならではのフィルターにはまったく興味がなかった。アナログ、デジタル、どちらで描いても、同じような絵が出来上がるというのが大事なんです。なるべくツールには依存しない。ガジェットなんていつ使えなくなるかわからないですからね。そんなときにはすぐにアナログに戻れなきゃいけない。あくまで自分の右手がいちばん信頼のおける道具なんです」
ガジェットと同じく、作品を発表する雑誌などの媒体に、過度の思い入れを持たないようにしているという。
「プラットフォームに愛情を抱きすぎてしまうと、生活がきつくなることがあります。描いている雑誌がなくなったり、業界がシュリンク(縮小)したりする状況はつねにあるわけなんで。結局、いちばん大事にしなければならないのは、どこに描いているかではなくて、何を描いているか、なんですよ」
最近では、個展で原画などを直接見せる機会も増えた。
「昔は個展を断ってました。印刷が好きで、刷り出しとか見ると今でも気分が高揚するから、自分の仕事はそこにあると思ってたし、足を運んでもらうほどの絵を描いていないって思いもあって。でもアメリカの知り合いに『アメリカで個展をやらないか?』と誘われて、『アメリカならいいかな?』と思ってやってみたら結構な人数が来てくれたんですよね。なら個展もやってもいいな、と思いました」
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