53歳「絵の天才」と呼ばれる男がなお抱く渇望 やりたいことと適性の一致は幸運だった

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自分で稼げるのは4万円、親から4万円もらって8万円。なんとか生活できる額だった。

「彼女がいたこともあったけど、基本は自分のことで精いっぱいだからうまくいかないですね。絵のことしか考えてないから……考えてないフリをしてたのかな(笑)。とにかく現状、何にもなってない自分がしんどかった。稼いでるってもたった月4万円だし。それじゃあ生活できないし。このままどうするんだろうって」

その当時、寝ると決まって悪夢を見ていたという。人を殺したり、殺されたりする夢だ。目が覚めて、なんで殺しちゃったんだろうと落ち込む。

「夢判断だと人を殺す夢は現状に満足してないってことらしい。未来に何者になれていない不安が無意識にストレスになってたんです。卒業して、親から月4万円ももらわなくなって、完全に自活するようになったら、ピタッと悪夢を見なくなった。それから1度も見てないですね」

卒業するつもりもなく単位も足りなかったが、母親に泣かれ、先生に説得されてなんとか卒業はした。就職するつもりはまったくなかった。

「絵を描いて生活できないなら、何でもやろうと決めていたけど、絵を描いて少しでも収入があるなら続けようと思ってました。その頃には自分のスキルがわかっていて、客観的に見えてました。ただ、プロでいけるというのはわかってたけど、どこまでいけるかはわからない。だから高望みはしてなかった。なんなら映画の看板の絵を描く仕事だけだってやりたかったし、1万5000円の部屋に一生住んでいてもよかったんですよ」

当時は景気が上向き傾向だったので、もしフリーでダメだったら就職しようという、甘い考えも持っていたという。

初めて舞い込んできた大きな仕事

21歳のとき初めて大きな仕事が舞い込んできた。ある日、学校の4つ上の先輩である西内としおさん(『みんなのうた』のアニメーションなど)から電話がかかってきて、

ファミリーコンピュータディスクシステムのゲームソフト『探偵 神宮寺三郎 新宿中央公園殺人事件』(写真:筆者撮影)

「ファミコン知ってる?」

と聞かれた。

「知ってますよ、持ってないけど」

と答えると、ファミリーコンピュータディスクシステムのゲームソフト『探偵 神宮寺三郎 新宿中央公園殺人事件』(データイースト)のキャラクターデザインなどの仕事を振られた。タイトルどおりのハードボイルドな作品で、西内さんの絵ではかわいすぎたため、お鉢が回ってきたのだ。

次ページこれで一生食えるかと思ったが…
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