53歳「絵の天才」と呼ばれる男がなお抱く渇望

やりたいことと適性の一致は幸運だった

中学生くらいになってイラストレーターという職業を知った。漫画家と違い絵を描くだけである。話を考えなくていいし、枠線も引かなくていい。

「ならばイラストレーターがいいんじゃないか?」と考えた。ただ、その頃はまだ、自分の絵のタッチも決まっていなかった。

「15歳くらいになると自意識が生まれてきて『自分の絵とは』なんて悩んでました。そんなときにメビウス(フランスの漫画家『密封されたガレージ』など)と大友克洋(『AKIRA』など)に出会ったんですよ。大ショックでした。まさにコペルニクス的転回を迎えるんです。

メビウスの絵に自分の欲しい線が見えた。自分が見えてるものが描けそうって思ったんですね。イラストと漫画って別物だったんだけど、メビウスを見たときに一緒でいいんだってわかった。

漫画家はアシスタントを使って描くものだと思っていたけれど、大友さんの短編を読んで『背景も全部1人で描いていいんだ!!』って気づきました」

デザイン科は天国?

そんな中学生のとき、家族で四国の松山のいとこの家に遊びに行った。そこで、いとこのお兄さんがデザイン科の高校の通っていると聞いた。

「え、デザイン科? 天国の別名か?」

と思った。岡山にも公立のデザイン科があると聞いて、両親に行きたい旨を伝えると、

「とりあえず普通科の高校に行って、大学で美術系に進めばいいじゃない」

と言われた。デザイン科は確かに潰しが利かない気がする。両親が言っていることは至極真っ当だった。仕方なく1度は、普通科の学校に行こうと決めた。滑り止めの高校に受かって家に帰る途中、自分の未来が走馬灯のように浮かんできた。

「普通科高校に行ったら絶対に途中で辞めてしまうな、って思ったんですよね。家に帰って親に『どうしてもデザイン科に行きたい。なんでもするから行かせてください!!』って頼み込んで。あんまりにも真剣で、目が言ってたみたいで(笑)。しょうがないわねって行かせてもらえることになりました」

念願かなって、デザイン学科に進学した。

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