財政出動の遅れがバブルを加速させた エコノミスト・宮崎勇氏①

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みやざき・いさむ 1923年生まれ。東京帝大経済学部在学中に学徒動員。47年同学部卒、経済安定本部に入る。80年経済企画庁事務次官で退官。82年大和証券経済研究所(現大和総研)理事長、95年経企庁長官(村山内閣)。その後、大和総研特別顧問などを経る。

中曽根内閣時代の1986年、「前川リポート」が発表されました。私は省益を離れて協力してほしいと、前川春雄さんに言われ、懇談会に参画しました。80年代、日本の経常黒字が巨額になっており、対照的にアメリカでは経常赤字が拡大していました。日本の経常黒字は世界経済の攪乱要因になっていて、外国からも近隣窮乏化だという批判がありました。現在のサブプライムローン危機も、元をたどれば経常収支の不均衡があり、資金余剰が招いたものです。

 経常黒字を是正するために何をすべきか。前川リポートでは、日本の経済構造を輸出に頼らない内需主導型にすることを提言しました。具体的には、財政・金融政策を機動的に活用すること、規制緩和を進めることです。私が起草委員だったということを差し引いてもらっても、基本的にはリポートはいいことを言っていたと思います。

社会資本を整備し、税制も簡素化し、消費を喚起する。そして規制緩和と門戸開放を進める。今日でいうところの構造改革のほとんどの項目をそろえています。しかも内需を伸ばしながら改革をやろうという点で、小泉改革より画期的だったといえるかもしれません。

前川リポートの先見性や時代的な必要性は変わらない

前川リポートは、後にバブル経済を発生させたと指摘されます。そうした面があったことは否定しませんが、それはむしろ実際の経済運営に問題があったからです。内需刺激のために景気拡大策が採られましたが、本来、財政と金融をタイミングよく組み合わさないといけないのに金融政策に偏ってしまった。低金利で資金余剰が続く中で、財政出動が遅れた。金融緩和は日銀の決定ですぐできますが、財政は政治家や大蔵省が絡んで機動的に運営できない。すこし遅れてバラまきのようなことをして、バブルを加速させました。これは反省点です。

90年代前半、日本がバブル崩壊の後遺症から立ち直るには何年かかるか、イギリスのジャーナリスト、ビル・エモットさんと議論したことがあります。私は日本の金融機関の実力からいって5年もあれば回復するだろうと述べました。ところが彼は、日本の銀行はそんなに強くない、もっとかかかると予測しました。結果は失われた10年、いや15年になりました。彼のほうが正しかった。

前川リポートの先見性や時代的な必要性については、何ら変わるものではありません。むしろ経済政策の舵取りは各界の思惑が絡むだけに、難しいというのが実感です。

週刊東洋経済編集部
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