規制「撤廃」にした「平岩リポート」 エコノミスト・宮崎勇氏②

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みやざき・いさむ 1923年生まれ。東京帝大経済学部在学中に学徒動員。47年同学部卒、経済安定本部に入る。80年経済企画庁事務次官で退官。82年大和証券経済研究所(現大和総研)理事長、95年経企庁長官(村山内閣)。その後、大和総研特別顧問などを経る。

細川内閣の時、「平岩リポート」の作成に携わりました。平岩外四さん、小林陽太郎さん、中谷巌さん、それに私が起草メンバーで、お目付け役として田中秀征さんが加わりました。「平岩研究会」は前川リポートにならい、21世紀を見据えた新しい経済社会を提言するために設置されたものです。このリポートは画期的でした。それは経済規制について「原則として撤廃する」と書いたことです。緩和ではなく撤廃。政府審議会でここまで言い切ったものはそれまでありませんでした。

 リポートの提出をめぐっては実は一悶着がありました。当初、事務方がつくった原案を持って、細川さんのところに報告に行った。ところが細川さんはそれをパラパラと見ただけで「ダメだ」と突っ返しました。確かに報告案はいろいろと長く書いてはありますが、意味のある内容はほとんどなかった。そこでもう一度、前述のメンバーで議論をし直し、全面的に書き直しました。

うやむやになってしまった「平岩レポート」

規制を原則撤廃としたことから、省庁の抵抗は大きなものになりました。起草メンバーの4人はみんな構造改革派ですから基本的な考えは一致しています。ところが実際にそれを書くとなるとニュアンスで食い違ってくる。私はこれでは省庁が納得しないだろうなというところがわかりますから、どうしても落としどころを意識してしまいます。強硬派だったのは中谷さんで、私は役所出身でいわば「ダラ幹」(笑)みたいなものです。でも省庁が提言を受け入れてくれることも重要ですからね。

リポートでは、数値目標をどう入れるかでももめました。私は説得性を持たすために数値を入れたほうがいいと判断していましたが、数値を入れて省庁がぎりぎりとやるのは規制緩和に合わないという反論もあって、議論が紛糾しました。

リポートでは経済改革で四つ改革目標を掲げています。【1】内外に開かれた透明な経済社会、【2】創造的で活力のある経済社会、【3】生活者を優先する経済社会、【4】世界と調和し世界から共感を得られる経済社会--です。経済規制の撤廃の原則と合わせ時代を先取りする報告だったと思います。

平岩リポートは提出直後に細川首相が退陣してしまい、うやむやになってしまいました。優れた提言であっても政治がきちんと機能しないと国民にとっては不幸です。ただ、追いつき追い越せ型の経済から、新しい国際社会に適した経済システムを提唱したという点で、意義のある仕事でした。

週刊東洋経済編集部
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