「盲導犬への暴力」騒動で見えた現状と問題点 チョークは"虐待"にあたるのか?
このチョークが『虐待』の論議の一因にもなっている。
「かわいそうという意見もありますが、チョークはけじめです。でないと犬がダラダラして指示を聞かなくなります。私がチョークをかけたとき、虐待だという人がいて、そこで動画に撮られたら……」
山川氏は不安を明かした。
チョークか言葉で伝えるか
チョークへの考え方は団体によりさまざまだという。
現在、国内で盲導犬を育成する団体は11。それぞれが独立して運営し、訓練方法や盲導犬に対する考え方については各協会独自の方針を持つ。
盲導犬を育成する中でチョークを禁止する団体のひとつが『公益財団法人日本盲導犬協会』。多和田悟常任理事は、
「私たちの団体は盲導犬が間違ったときは“NO違う”と言葉で言い、正しい行動が何かを必ず教えます。繰り返し教えて、できたら正しいと褒めて行動を強化します」
と、きっぱり。さらに、
「叱ったからとうまくいくとは思っていませんし、解決方法にはなりません。叱ったり、罰や苦痛を与えるとそれから逃れたい、と本質を間違える可能性もあるんです」
同団体は、盲導犬自身が理解して納得し、成功し、褒められて満足することが自発的な行動につながると考える。
アイメイト協会は違う解釈だ。塩屋代表が説明する。
「チョークは犬を苦しめたり、痛めつけるんじゃありません。叱った後には必ず褒めます。大切なのは褒めることと叱ること。叱らないことは聞こえはいいですが、それで盲導犬が正確な仕事ができるかといえば疑問です。全盲の人が安心して歩くためには適切に叱ることも大切です」
両団体は異なる主張を持つが「盲導犬とユーザーの幸せ」という点は共通する。
NPO法人日本補助犬情報センターの橋爪智子さんは、
「虐待問題は当事者や団体の責任だけではなく、社会みんなで考えることです。もしかしたら彼は動画の前に困ったことがあり、それが解決せずに感情を抑えられなかったかもしれません。誰かが気づいて事情を聞いていれば助けることができた可能性も。犬もユーザーも不幸な状況です」
前出・山川さんは50代後半で全盲になったが、盲導犬との出会いで世界が変わった。
「白杖はやっぱり怖い。でも盲導犬はきちんと仕事をしてくれるので安心です。私の目であり、パートナーであり、家族です。一緒にいることで自由にどこにでも行けます」
視覚障がい者と盲導犬、健常者が幸せに暮らせる社会はすぐ近くにあるはずだ。
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