若い世代は「永井荷風」をどう読んでいるか 本を手にとるきっかけはゲーム?

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そしていま、若い世代が荷風に出会う大きなきっかけになっているのが、ゲーム「文豪とアルケミスト」、通称「文アル」だ。

2016年11月にリリースされた「文アル」は、PCブラウザ版とスマートフォンアプリ版があり、基本は無料でプレイできる。近代風情の残るもう
ひとつの日本で、文学書が黒く染まる事態が発生。そこに、プレイヤー自身である「アルケミスト」が派遣され、近代日本の文豪たちを転生させて敵と戦うというストーリーだ。60万人以上のユーザーがいるという。

ゲーム「文豪とアルケミスト」、通称「文アル」。60万人以上のユーザーがいるという(写真:株式会社DMM.comラボ)

ゲームに縁のない私だが、スマホ版をやってみて驚いた。なにせ、最初に出てくる文豪が徳田秋声なのだ。その後出てくるのも、中野重治、織田作之助、堀辰雄といった面々。シブい……。登場している文豪は現在45人。漱石、鴎外、芥川はもちろんのこと、中島敦、小林多喜二、新美南吉まで入っているのだ。しかも、彼らの経歴や作品がストーリーの随所に現れる。

「最初に徳田秋声が出てくるのは、金沢びいきだからですね。開発チームの拠点が金沢にあるからなんです(笑)。金沢の3文豪と呼ばれる秋声、泉鏡花、室生犀星は全員登場します」と、「文アル」のプロデューサーである谷口晃平さんは言う。

鏡花と秋声はライバル、芥川と菊池は親友・・・

谷口さんによれば、「文アル」は文豪の関係性を見せるゲームだ。尾崎紅葉の門下にいた鏡花と秋声がライバルだったこと、芥川龍之介と菊池寛が親友だったことなどの事実をもとに、ストーリーを展開させる。作家同士でやり取りされた手紙もシステムとしてゲームに落とし込んでいる。

「ユーザーの中心は20代の女性です。このゲームがきっかけで、登場する文豪の作品を読む人が増えています。文学史上のトリビアも入っているので、研究者からも面白いと言ってもらえています」(谷口さん)。このゲームの影響で、著作権切れの文学作品を電子化している「青空文庫」のアクセスが増えたり、神保町の古書店で初版本を買う人がいたりするという。

そして、出版業界も「文アル」に注目している。10月末には新潮社とのコラボレーションとして、『新潮社版/神楽坂ブック倶楽部編「文豪とアルケミスト」文学全集』を刊行する。漱石と芥川の往復書簡集、秋声や鏡花の短篇小説、谷崎と芥川の論争などのテキストを収録し、「文アル」ファンの文学作品への入り口とする。また、新潮文庫の6作品(芥川龍之介『河童・或阿呆の一生』、太宰治『走れメロス』、坂口安吾『堕落論』、『萩原朔太郎詩集』、川端康成『雪国』、島崎藤村『破戒』)を「文アル」キャラの限定コラボカバーで発売する。このカバーの人気が出れば、ほかの文豪の品切れ本の復刊につながるかもしれない。

新潮社文庫担当の佐々木悠さん(この人も20代だ)は、「『文アル』をやってみて、文豪がより身近に感じられるようになりました。登場する文豪キャラたちが書いた実際の本も読んでみたくなります」と語る。「文アル」には、荷風も登場する。各キャラクターには「精神」「主題」「天才」などのパラメータ(変数)が設定されているが、谷口さんは、「荷風の場合は、耽美主義だったこともあり、ゲーム中のステータスは〝美〟のパラメータ影響の要素を強くしています」と言う。

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