日本人の大半が知らない「脳性麻痺」の真実 発生数を減らした補償制度の成果と残る課題

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のぞみさんが立ち上げた病児服メーカー「パレットイブ」のウェブサイトを訪ねると、服の写真とともに、かわいいイラストがあふれている。でも、このイラストを描いている宮田敦子さんは、長女の麗衣奈(れいな)ちゃんについて産科医療補償制度の申請を行ったところ、対象外とされた。

宮田さん夫婦と、まだ病気だとわからなかった頃の麗衣奈ちゃん(写真提供:宮田敦子さん)

今8歳になる麗衣奈ちゃんは、開業医の産婦人科医であるおじいちゃんの手で取り上げられた。当時32歳だった敦子さんは、特に問題のない妊娠生活を過ごし、お産も安産だった。初めての子どもを迎えた夫婦は、海が好きで、麗衣奈ちゃんと一緒に海で遊ぶことを夢見ていたという。

ただ、麗衣奈ちゃんは泣いている時間がとても長く、夜中も宮田さん夫婦と祖父母が交代で抱き続けていた。病院へ行っても原因がわからず、そんな眠れない日々が2年以上も続いた。

今も麗衣奈ちゃんは脳の興奮状態が続き、それを十数種類の薬で鎮静させて昼夜のリズムを作っている。自分から動くことはほとんどなく、食事は胃ろうから取り、気管切開もしている。

制度の対象外だったのはなぜか

産科医療補償制度の対象と認められなかったことは、宮田さんにとって大きなショックだった。書面によると、麗衣奈ちゃんは、産科医療補償制度の定める脳性マヒの定義に該当しないということだった。脳のCT画像に萎縮の微妙な進行が見られ、それが制度が定める「病変は非進行性であること」という脳性麻痺の定義に合わなかったのだ。そのために宮田さんは、実際には補償対象となる家族とほとんど変わらない介護生活を送っているにもかかわらず、1円の補償金ももらえていない。もちろん、原因分析もない。

麗衣奈ちゃんの脳障害は、原因がわからない。産科医療補償制度に申請しても、脳性マヒの定義に合わないとされた(撮影:河合 蘭)

産科医療補償制度に申請しても補償の対象と認められなかったケースは、いったいどれくらいあるのか。

日本産婦人科医会記者懇談会配布資料によると、審査結果が確定した初年度から3年間分を見ると1586件の審査があり、そのうち補償の対象とされたのは1156件だった。審査されたケースのうち、4件に1件は、認められなかったことになる。

産科医療補償制度の趣旨は「親を経済的に救済するとともに、紛争の防止・早期解決を図り医療を向上させる」と説明される。ただし、救済されるのは「分娩に関連した重症脳性麻痺」、つまり、今までなら産科の医療紛争につながりやすかった事例だ。

先天的なもの、脳が未熟な時期に生まれてしまった特に早い時期の早産も対象から除外される。同じ重度の脳障害なのに、ある子を認定し、ある子を除外する――医療を支えるために作った救済制度のジレンマである。

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