子どもの貧困を救う「返礼なし」ふるさと納税 東京・文京区が始めた「こども宅食」の狙い

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今回対象となるのは、文京区内の児童扶養手当を受給する700世帯と、就学援助を受給する1000世帯。QRコードがついた案内状が対象世帯に届けられ、無料通信アプリ「LINE」を通してペーパーレスの申し込みができる仕組みとなっています。今年度は2カ月に1回、申し込みがあった世帯から抽選で150世帯に発送。翌年度からは毎月発送することを目標としていると言います。

「見えにくい」貧困世帯を「見えない」状態のまま

今回、文京区という基礎自治体と手を組み事業を進めていけるメリットを、駒崎さんはこう話します。

「通常こうした児童扶養手当受給者、あるいは就学援助世帯の情報に絡むような事業を民間の支援団体やNPOとともにするということは行政にとってかなりハードルが高い。われわれ民間団体はどこに支援が必要な子どもがいるのかわからない闇の中で一生懸命活動をしているというのが通常のケースになる。自治体とともにやらせていただけることによってピンポイントで支援を届けられる」

昨今、子ども貧困対策として注目を集め広まってきた「こども食堂」。文京区でも「こども食堂」の活動を行う団体は増え、今年度は区の一般会計から運営補助が。しかし、成澤廣修文京区長は、「こども食堂」という支援の形に限界を感じていたと言います。

「居場所づくりになっているんですね。本当に貧困の子どもたちのためにやっている『こども食堂』ではなくて、貧困の子どもも来ているかもしれない、両親は高所得者だけどネグレクトを受けている子どもも来ているかもしれない、仲間が集まるから来ている子どももいるかもしれない。支援に限界を感じておりました。私たち文京区は生活保護率を見ても23区の中で決して高いほうではありません。むしろそれなりの資産や所得を持った方が多い自治体です。そういう自治体であればこそ、『見えない』という状態がむしろ色濃く出てくる可能性がある自治体だと思っています。行政が直接そういった人たちに支援をすると、地域の福祉のネットワーク等で、その子たちが『貧困家庭の子ども』だと周囲に見られてしまう危険性があるので、今回は(行政が前に出ない形で)民間のNPOやさまざまなセクターの皆さんたちと協力し合うという形に意味があると考えています。見えない状態のまま子どもたちにきちんと食料を届けることが子どもたちを守ることにもつながると思っています」

「こども宅食」事業では、LINEを通じての直接的なやり取りやアンケート、また宅配時に宅配員が気づいたことをチェックシートに記入し、こども宅食コンソーシアム事務局に報告するなどの形で、対象世帯へのソーシャルワークも行っていく予定です。

「子どもたちの元に食料を届け、そこでつながり、厳しい環境にあるご家庭の相談に乗り、そしてソーシャルワークをしていきながら共にご家庭の課題を解決していく。食料を届けるだけでなく、そこから後につながる支援、セーフティネットづくりが大切な部分だと感じている」と駒崎さんは話します。

「こども宅食」の大きな特徴は、ふるさと納税が活用されるという点。しかし、駒崎さんは「返礼品はありません」と言います。

次ページこども宅食という事業にそのまま全額いく
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