製造業の「国内回帰」は一時的現象にすぎない 長期で見て、内需が弱く海外生産比率は拡大

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経済産業省は6月6日に「2017年度版ものづくり白書」を公表した。同省は2014年度版より継続的に「製造業の国内回帰」に関する企業アンケート調査の結果を公表しているが、この調査結果によると「産業の空洞化」は継続していることがわかる。

2016年末に行われた調査結果によると、「過去1年間で海外生産の製品・部材を国内生産に戻した製造業企業の割合」は11.8%と、2014年末(このときは過去2年間についての調査)の13.8%や、2015年末の12.0%から小幅に低下した。

「円安」や「中国の人件費高騰」など限定的要因

また、国内回帰の理由は「為替レート」が最も多かった(31.3%)。ここ数年は過去と比べて円安であることから、コストの面から「為替レート」が国内回帰の要因となっているようだ。他の理由として多かった「人件費」(23.2%)や「品質管理上の問題」(20.2%)は、現地法人での問題を示した例であり、国内回帰には消極的な理由が多く含まれるようだ。これらは積極的に日本に生産拠点を戻す要因ではないため、日本企業や日本経済にとって必ずしも明るい話ではない。最低限の国内回帰にとどめるなど、国内の設備投資に与える影響も限定されそうだ。

2016年3月末までの1年間に日本企業が生産を国内に戻した移管元の比率を見ると、中国・香港が約66.0%と、圧倒的に多い。同じく経済産業省の海外事業活動基本調査によると、日本の製造業の海外現地法人のうち中国・香港の比率は約37.5%にとどまっていることから、中国・香港からの移管比率がかなり高いことがわかる。中国の賃金上昇率の速さなどを考えれば、前述した「人件費」が国内回帰の理由として挙がることも納得できる。

今回の調査結果を受け、経済産業省は「国内回帰の動きが一定程度継続して見られる」とした。しかし、調査結果は円安による一時的な動きや中国の人件費高騰などによる局所的な動きを反映している可能性があることには留意が必要である。

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