アベノミクスで「労働分配率」が低下する理由 最新のGDP統計から見える日本の実態
あまり注目されていないが、昨年末、重要な一つの経済統計が公表された。GDP(国内総生産)を作成している内閣府経済社会総合研究所による2015年度の「国民経済計算年次推計」である。
国民経済計算、すなわちGDP統計をめぐっては昨年、研究開発(R&D)費を新たに加えるなどの新しい基準を採用し、GDPを計算し直した。その結果、従来基準では501兆円(以下、兆円未満は四捨五入)だった2015年度の名目GDPは532兆円と約30兆円膨らんだ。名目GDP600兆円の実現を目指す安倍政権にとって心強い「援軍」となった。
しかし、ここで注目したいのはGDPではなく、新たな基準で計算し直された労働分配率だ。昨年末に公表された年次推計によると、2015年度の労働分配率は2014年度比0・8%ポイント低下し、67・8%となった。これは2003~2007年度以来の低い水準だ。
経済が好調な時は低下しやすい
労働分配率は、雇用者報酬を国民所得で割ったもので、生産活動によって得られた付加価値のうち労働者が受け取った割合を指す。この定義から明らかなように、経済が好調なとき、つまり分母である国民所得が伸びているときは低下しやすい。
国民所得のうち、企業所得は2015年度に99兆円で、直近ピークである2004年度の109兆円に近づいている。企業所得が増えているので企業側が賃上げする余地があるとは言えるが、労働分配率が低下しているからといって、ただちに悪いと断定するわけにはいかない。
実際のところ、過去20年間の労働分配率は大きく上下動を繰り返している。リーマンショックの起きた2008年度に労働分配率が急騰したのがその良い例だ。
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