アベノミクスは格差縮小に効果があったのか 格差がわずかに縮小した本当の理由
安倍晋三首相が2016年11月に南米アルゼンチンで行った記者会見が、目立たないけれども実に印象深かった。
APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議のためにペルーを訪れた後、アルゼンチンに立ち寄り、記者会見に臨んだ。米国大統領選挙でのトランプ氏の当選に象徴されるような保護主義的風潮や国内外での格差拡大への懸念について問われ、こんなふうに答えている。
「全国消費実態調査に基づく相対的貧困率は集計開始以来、初めて減少した。とくに子どもの相対的貧困率は、大幅に改善した。アベノミクスは成長一本槍、一辺倒ではないかという批判があったが、そうではなく、私たちの経済政策が格差の縮小にも効果を上げていることが証明された」
安倍首相はさらに、「成長し、富を生み出し、それが国民に広く均霑(きんてん)される、多くの人たちがその成長を享受できる社会を作っていきたい」と述べ、経済が成長すれば格差や貧困も解消されるという、いわゆるトリクルダウン効果を強調した。
安倍首相がこの発言の中で取り上げた10月末公表の「全国消費実態調査」(2014年)は、総務省が家計の構造を所得、消費、資産の3つの側面から総合的に把握するため、1959年から5年に一度調査しているもので、社会保障政策の基礎資料として使われている。
格差を示すジニ係数は2014年に縮小した
戦後12回目となる2014年調査の結果では、格差を示す指標であるジニ係数が1999年に数字を公表して以来、初めて縮小した。具体的には、総世帯の世帯員ごとの可処分所得(等価可処分所得=世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割ったもの)のジニ係数が、前回2009年の数字0.283と比べて0.002低下し、2014年は0.281となったのだ。
世帯主の年齢別にみると、2009年調査と比べて65歳以上のジニ係数は変わらなかったが、30歳未満と30~49歳の現役世帯での格差縮小(ジニ係数の低下)が目立っている。
また、安倍首相が指摘するように、相対的貧困率は前回2009年調査と比べて0.2ポイント低下し、9.9%となった。相対的貧困率は、等価可処分所得の中央値の半分の額を「貧困線」とし、貧困線に満たない世帯人員の割合を指す。17歳以下の子どもの相対的貧困率は2ポイントも低下し、7.9%となった。
総務省統計局は「まだ十分に分析できていないが、総世帯の等価可処分所得のジニ係数が低下したのは、近年雇用状況が改善し、40歳未満の低所得世帯の収入が増えていることが考えられる」としている。格差縮小はいずれにせよ朗報だ。格差縮小の度合いは0.002ポイントとわずかだが、アベノミクスのトリクルダウン効果が起きているのかもしれない。
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